海で・・ 167
「ありがと。一馬くんに惚れる女の子がいるのもわかる気がするわ」
少し潤んだ瞳だが、梨花さんが笑顔になった。
「あの時はホントにごめんね」
「いいですよ、昔の話は…」
「あの時、いえ、今まではホントに気がどうかしてたとしか思えなくて…」
「でも、梨花さんにとっては、広隆さんが許せなかった、というのがあるんでしょう?」
「うん、まあね…でも、もういいかなって」
梨花さんが吹っ切れたような表情をした。
「ここに来る前に、信藤紀代美さんに会ってきたの…一馬くんならご存知よね?」
「あ、はい…」
紀代美さんとは僕もちゃんと会って、相談もなしに真実を告白したことを謝まらねばと気になっていた。
それなのに、それにはどうも腰が重く、暇でありながら明日明日と日を伸ばしていた。
「紀代美さんはお元気でしたか?」
「ええとても…はつらつとしていて、輝いていらっしゃったは…」
確かに紀代美さんを花に例えるとしたら、灼熱のダリアのような人だ。
「今までのことを全部話そうと、謝ろうと思って。紀代美さんもいろいろつらいことがあったんだろうと思って励まそうと思ったら、逆に励まされちゃって…つくづく情けないなぁ、私って」
「そんなことはないですよ」
そうやって話す梨花さんの姿は、やはりミキさんや真帆に良く似ていて。
亡くなった梨花さんのお母さんも、実は紀代美さんに似ていたのかな、なんて思ってしまう。
僕を困らせないようにと、無理に笑顔を作る姿が痛々しかった。
きっと僕が想像する以上に、梨花さんは嫌な思いや辛い体験をしてきたのだろう…
それを思うとこっちまで泣けてきた…
「やだぁー、何で一馬くんが涙ぐむのよ?」
驚いた表情の梨花さんは、次ぎには笑っていた。
「すみません…そんなつもりは無いんですけど…ヒク」
「ありがとう…本当に優しいのね…」
横に来た梨花さんは、僕の頭を優しく抱き締めてくれた。
「こんなに優しい子に、あんな汚い言葉なんて浴びせたかと思うと、本当に申し訳ないと思うわ…」
梨花さんの声が掠れ、僕の頭を抱きしめる腕が震える。
「ごめんね…」
梨花さんも、我慢の限界だったのだろう。
そう言うと、大粒の涙を流し、泣き崩れた。
僕は、今度は逆に、梨花さんの身体を優しく抱きしめた。
あのときの冷たい態度が嘘のように、梨花さんの身体は温かかった。