海で・・ 165
「唯ちゃん先生ったら酷いんだぜ…『溜まったら私が抜いてあげる』とかって最近、毎日挑発というか、誘惑というかさ…」
「あの人、そんなことする人か?」
「俺にはそうなんだよ…」
「ふーん…もう結構暗くなってきたけど…帰らなくて良いのか?」
「ああ、大丈夫。アヤさんと姉貴、同い年みたいで、すっかり意気投合しちゃって」
「…由佳里さんかぁー」
由佳里さんとヤッタのはつい先日のことなのに、あれは随分と前のことのように思えた。
「姉貴とは暫く会ってないんだろ?」
「あ、ああ…」
僕は嘘をついた。
由佳里さんと寝たことなど秀人に言える筈もなく…
ましては、秀人の義理の姉さんの唯先生と寝たことなんて、口が裂けても言える訳などないのだ。
しばらく秀人との話を楽しんで、家に帰った。
紆余曲折あったけれど、秀人のこの先の人生には明るい光がさしている。
親友として、嬉しかった。
僕も、ミキさんと真帆の関係を打ち明けられて、本人達も幸せそうで。
前に進めたんじゃないかと思っている。
―春は、すぐそこまで近づいている。
新しい環境への不安と期待で、今の僕はいっぱいいっぱいだけど、
そこにはミキさんや真帆、それに茜がいてくれるんだ…
そう思うだけで、心底から勇気が湧いてくる。
それに新しい環境になれば必ず、今は知りもしない"女の人"との出会いが待っているんだ…
そこには必ずしもエッチなことは無いかもしれないけど、
それでもその出会いが、僕を成長させてくれることだけは分かっていた。
ヤッホゥッホゥッイィ〜!!
僕は犬のように遠吠えしながら、月に向かって大きくジャンプした。
―さて
受験は終わった。
とりあえず、入学式までは自由の身だ。
…ようは、暇なのだ。
秀人が身近にいたときは暇さえあればどこかに遊びに行ったものだが、今は違う。
親父は仕事、お袋も外出となると家には僕一人。
こういうときは、おとなしくゲームかネットか…
ピンポーン
…と、誰かが来たようだ。
こういう時って、あまり応対したくないんだけど…
「はい?」
インターホンで呼びかける。
「あの、鈴木一馬くんは…」
少しオドオドした感じの若い女性の声。
「僕ですけど、どちら様でしょうか?」
「…覚えてないかな…私、中原梨花っていうんだけど…」
名前を聞いて、はっとした。
しかし、その声は、以前会ったときとは全く違う、やけに腰の低い態度だった。