海で・・ 162
「またいつでも言って…」
「あっ、ありがとう…」
なんだか照れた…
互いに素っ裸で、それこそセックスの後にマサッ−ジしてもらって…
なんだか今日初めて交わったというより、長年付き合っている、恋人同士みたいにも思えた。
時間もかなり経った。
「ありがと。今日は楽しかったよ」
「僕も。茜の思い出になれば」
「十分なったよ」
茜は無邪気に微笑む。
「4月からもよろしくね!」
「うん」
茜の家を出て、帰路につく。
自分は男として成長できたか?
まあ、今の時点ではイエスと言っていいのかもしれない。
後ろめたさとかは一切なく、清々しい気持ちで家に帰ることが出来たのだった。
家先の電信柱の陰に、蛍のような小さな灯が燈る。
…タバコだな…誰だ?
猫背ぎみの細身の男…街灯の影が長く伸びていた…
どこか見覚えがあった…
もしかして…
ゆっくりと振り向く男は僕に気づくと、ニヤっと頬を上げ、「遅せぇ…」と言った…
「秀人ぉぉ!」
僕は歓喜のあまり、その身体に飛び付いていた。
「おいおい、一馬はいつもそうなんだからさ〜…これじゃ俺らホモじゃんかよ〜」
そういう秀人も嫌そうではない。
「いやいや、お前とは滅多に会えなくなっちゃったからさ〜」
「まあ、そうだよなぁ」
「今は東京にいるのか?」
「ああ、アヤさんが俺の親に挨拶がしたいって言うからね」
「いよいよ結婚かよ〜!」
秀人の頭をヘッドロックのように抱え込む。
「ははは!まだだって…俺が18になるまでには、まだ時間があるからな…」
秀人は身体を捩って、僕の腕からすり抜ける。
「でも、もうすぐ親父になんだろ?」
僕は秀人の指から煙草を抜き取り、それを深く吸い込む…
久しぶりの紫煙に咽せそうになりながらも、それをぐっと堪える。
そんな僕の表情に気づいたのだろう、秀人はニヤリと笑いながらも、敢てそれを口には出さずに話しを進めた。
「親父になるのはまだ4ヶ月後だからな…その間にちゃんと大人にならなくちゃいけないよな…」