海で・・ 149
―そして、木崎さんの家までやってきた。
「ホントに、誰もいないの?」
「親は共働きだし、兄貴は学校だよ」
木崎さんにそう言われ、一緒に家の中へ。
木崎さんに、自分の部屋に案内される。
部屋の中は僕とは比べ物にならないほど整頓されていて、綺麗だった。
ただ、女の子の部屋にしては地味な印象を抱いた。
グレーのベッドカーバーの上に腰を下ろし、僕はダウンジャケットを脱いだ。
「女の子らしくない部屋でしょ?私、ピンクとかパステルカラーとか好きじゃないんだ。」
ハンガーに服を掛けてくれる木崎さんは、モノトーンの色彩の中で、やけに大人びて見えた。
「なんか落ち着くよ。僕もチャラチャラした色は好きじゃないさ。」
そんなことは思ってはいなかったけど、僕は命一杯背伸びして木崎さんに合わせた。
「こうするともっといい感じになるんだよ。」
木崎さんはカーテンを閉め、部屋の照明を消すと、アロマテラピーの蝋燭だけを灯した。
「へえ〜、すごいね。なんかムードがあるというか…」
「寝る前とか、こうしてると落ち着くんだよ」
「木崎さんってオシャレだね」
「へへへー、真帆にはこういうのは出来ないよねー?」
「確かに」
申し訳ないが真帆はオシャレに縁遠いタイプだ。
真帆のエピソードには『服を買いに行ったつもりがお菓子を大量に買って帰ってきた』という意味不明な話がある。
…まあ、洒落っ気よりも食い意地なのだ。
姉であるミキさんが聞いたらガッカリするかもしれない。
とはいえ、僕も洒落っ気がある方とは到底いえず、私服のほとんどは母さんが揃えてくれた物だった。
自分で購入した唯一の物としては、今日穿いている勝負パンツがあるのだが、それも真帆が喜んでくれそうなパステルカラーのドットプリントされている物で、それを木崎さんが気に入ってくれるとは到底思えないパンツだった。
木崎さんが僕の隣に腰を下ろす。
…部屋の中は、沈黙に包まれる。
気の利いた言葉が見つからない。
すると、木崎さんがこちらを見つめてきた。
視線が合う。
しかし無言。
…お互いに緊張してるということは、言うまでもなかった。