海で・・ 145
朝っぱらから慣れないことをしてドタバタしてしまったが、準備は整った。
用意したスキンもちゃんと持った。
「よし」
一呼吸、気合を入れて、僕は待ち合わせ場所に向かった。
ひょっとしたら、受験のときより緊張しているかもしれない。
…相手が処女かもしれない、ってことがそれほどのものとは知らなかったので、まだ不安はある。
先に待ち合わせ場所について5分くらい経ってから、木崎さんがやってきた。
そういえば、木崎さんの私服姿は初めて見るなぁ。
地味な制服とは違って、それはとても華やかだった。
普段、真帆の引き立て役になっているとはいえ、こうやって改めて見ると、木崎さんもなかなかだ。
「悪い悪い!待ったぁ〜?」
普段の口調ではあるが、仄かに頬が高揚していた。
リップクリームだろうか?・・小粒の唇がピンクに輝いている。
「いやいや、僕も今来たところだよ」
「そっか〜、よかった〜」
「普段、そういう服着るの?」
「あっ、私服見るの初めてかぁ。似合うかな〜」
「可愛いと思うよ」
そう言うと、木崎さんの顔が赤みを増す。
「…そ、そういう…あー、年上の彼女さんからそうやって鍛えられてるんだな…」
「い、いや、それは…」
「いろいろ教えてもらってるんでしょ?年上の人に…」
「あ、い、いや、そんなでも…」
木崎さんの言う"いろいろ"は、当然『"H"』なことを意味してると思われ、僕はしどろもどろになってしまう。
「くすっ….鈴木くんっていろいろやってる割りに、純情なんだね。」
そう言う木崎さんは僕の腕を取ると、そそくさと歩き始めた。
―それからは普通だった。
映画を見て、買い物を楽しんで、一緒に食事する。
ショッピングモールのフードコートの席で、しばし二人で話す。
「ところで、今日はどうして僕と…」
「ふふ、やっぱり気になったか」
「そりゃ気になるよ」
「…興味あったんだ。鈴木くんのこと。真帆と付き合う前から」