海で・・ 139
夕暮れ差し迫ったころ、ミキさんは僕と真帆を送っていってあげると言うので、再び駐車場に向かう。
「僕はともかく、真帆の家は…」
「家の前に止めるだけだから、大丈夫よ」
心配する僕をよそに、ミキさんは言う。
二人に本当のことを言って、認めてもらって、すっかり仲良し姉妹になったのはいいことだが、この二人の母親である紀美子さんには、当然ながら何も打ち明けてはいない。
ミキさんと真帆に真実を告げる時は、紀美子さんの前でと思っていただけに、相談もしなかった自分が悔やまれた。
そして2人は、紀美子さんや広隆さんの存在を、これからどう思うのだろうと不安を覚えた。
増しては中原梨花さんという、腹違いのお姉さんだっているのだ。
一挙に事は解決しないにしても、1段1段、階段を登って行くように、ミキさんと真帆は事を消化していかなければならないのだろうと、僕は自分のことのように胸が痛んだ。
ミキさんは先に僕を家まで送り、その後真帆を送っていくと言う。
―車は家のすぐ近くまで来た。
前のほうをよく見ると、母さんが誰かと話しているのがわかった。
「ここでいいですよ」
「そう?」
僕はミキさんに、手前で降ろしてもらうよう頼んだ。
「今日はありがとうございました。真帆もね」
「春休みに一度は会おうね〜」
「楽しみにしてるよ」
そう言って、二人とは別れた。
ミキさんと真帆の乗った車が走り去るのを確認して、家に向かう。
母さんと話している女性は、どことなく母さんに似ている。
「ああ、叔母さんかな」
母さんのひとつ下の妹である。
「ただいま」
「あら、おかえり。それと、合格おめでとう」
「うん、ありがと」
「一馬くんはどこの高校にいくの?」
叔母さんが尋ねる。
「F高です」
「あら、偶然ねぇ。うちの娘もF高なの」
…おぉ。
叔母さんとこの娘…か。
僕はちょこっと眉を顰めた。
いとこである叔母さんとこの娘とは、数年前に会ったきりとはいえ、少しばかり苦手だった。
僕がここ最近、親戚同士の集まりに参加しないのも、その子に会いたくなかったからなのだ。
「よかったじゃない一馬、知らない人ばかりだと何かと不安でしょ?」
何も分かってはいない母さんは、僕に笑顔を催促するかのように肘で小突いた。