海で・・ 1079
「いらっしゃいませぇ〜」
見覚えの無い女の子が営業用の微笑みを見せる。
「あのぉ…梨花さんは?…」
梨花さんの苗字をすっかりと忘れてしまった僕は、仕方なく名前で尋ねた…
「あっ店長ですね…それが店長、ここのところずっと体調が悪くて、奥の自宅で休んでいるんですが…」
「あら大変…そうなの?」
ミキさんが心配そうに尋ねる。
まあ梨花さん自身がいなくても彼女のようなスタッフがいれば店の経営は大丈夫なのだが…体調は大丈夫なのだろうか。
「どうする?ミキさん…」
先に食事して様子を見に行くか…
ほぼ満席の店内…運よく一つだけ窓際のテーブルが空いていた。
「シェフの人はいますよね?…」
水とメニューを運んで来たさっきの女性に尋ねる。
「はい。お呼びいたしましょうか?…」
「いえ、今は忙しいでしょうから後にします…」
一番忙しい時間帯だから、咲乃さんにも他のスタッフの方々にも迷惑はかけられない。
ちょっと待った方がいいだろう。
「梨花さんの体調、気になるわね」
「はい…」
オープン前に行って数ヶ月、順調にお店も繁盛しているのだから…
そんな時期に店を休むなんて…ただの風邪ぐらいだったらいいのだけど…
「食べ終わったら、様子見に行きましょうね…」
「そうね…こんなことならちゃんと連絡してから来るべきだったかしら…?」
「いえ梨花さんのことです…僕たちが来ると知っていたら、無理して店で出迎えてくれたんじゃないですか?…」