海で・・ 1044
玄関を通り、扉を開ける。
カギは掛かっていない、みゆきさんがいるんだな。
「お帰り、一馬くん♪」
「早かったですね」
「今日が初日でしょ、いい印象を持たれたかったもの」
「父さんは遅いかもしれませんよ」
「いいわ、何時でも待ってるから」
手を差し出すもんだから、僕は思わず鞄を差し出してしまう…
「ふふ…お風呂沸いてるけど、先にご飯にする?…」
おいおい;…『それとも…わ・た・し…?』なんて言わ無いで下さいよ;…
「何ニヤついてんのよ?…」
「あっ;すみません;」
そんな新婚夫婦みたいなやり取り期待してる自分はいったい何なんだか。
「えっと、先にお風呂でいいのかな…」
「もちろん♪ちゃんと沸かしておいたからねっ」
子供っぽく胸を張って言い張るみゆきさんがちょっと可愛い。
「お父さんっていつ帰ってくるかわかる?」
「日によって差があるので、僕もちょっと」
なんて言っていると、玄関のほうで物音が。
「何だ父さん、僕も今帰って来たところなんだよ…」
「おお、みゆきさんが来てくれているのに、飲み歩く訳にもいかんだろ…」
父さん;…普段残業と言っておきながら、その実飲みに行っていたんですかね?;…
「ふふ、お帰りなさいぃ、お食事とお風呂…どちらになさいます?…」
それを聞いてニタリ顔をする父さん;…
僕と同じように『それとも…わ・た・し…』を想像したんだろうね;…
「親子って似るのかなぁ」
みゆきさんがなんか聞き捨てならないことを言ったような気がするが、まあいいか。
「一馬くんが先にお風呂って言ったけど」
「ああ、俺も一緒に済ませていいかな」
「まあ…」
というわけで父さんと風呂に入り、手早く身体を洗い流してダイニングに向かう。