うちのクラスの【千年さん】 35
「はぁー」
いつも以上に疲れた一日を過ごした気がする。
帰り道は未羽ちゃんがずっと腕組み密着しっぱなしだった。
「冬馬くん、興奮してるなら一発抜いてあげるよ!」
「今日はそんな気は起きないな、流石に」
「ええー」
ええー、って、全部貴女が原因のような気が…とはとてもじゃないが言えない。
「私を襲ってもいいのは冬馬くんだけだからね。じゃねっ!」
家の前まで来ると未羽ちゃんはそっと頬にキスしてそう告げ、家の中に入っていく。
あぁ、凄い人を彼女にしてしまったかもしれない。僕のせいだけど。
「そうだ、冬馬くん」
ドアを開けて再び顔を出す未羽ちゃん。
「何か用?」
「次の週末ウチに来てくれない?」
「良いけど、何?」
またお家デートだろうか?
「お父さんとお母さんが会いたいって言ってるから時間取って欲しいの」
「……はい?……そう言えば昼にそんな感じの事を皆に言ってたっけ」
「うん。二人共楽しみにしてるから」
「あの。御二方は何処までご存じで?」
「何処まで?」
「その、未羽ちゃんと裸のお付き合いがある事とかはご存じで?」
「うん。恋人が出来たって報告したら勘付かれて誤魔化せそうにも無かったから、正直に答えたよ」
「……僕、殺されるんじゃないかな?」
「大丈夫だよ。基本的に私がお願いした側だから。寧ろ私が冬馬くんの御両親によくも息子を誑かしたなって怒られる側だって言ってあるから」
それは、たぶんないな。
むしろ僕の親は彼女ができたなんて言ったら驚いて大喜びするんじゃないかと思う。
まして未羽ちゃんみたいな超絶美少女だったら…
「じゃ、お願い。楽しみにしてるから」
「うん、わかった」
そんな約束をして、帰宅。
まあ、ウチの両親に報告はまだ止めておこう。未羽ちゃんの御両親、特に父親の方がどんな反応するかが分からない。未羽ちゃんは大丈夫って言ってたけど愛娘に対する態度と愛娘に近づく男に対する態度なんて違うに決まってるし、未羽ちゃんも知らない顔が出てくる事もあり得る。ウチの方は話をつけるのは楽だろうから、まずは向こうの様子を見てからにしよう。
夕食やお風呂、未羽ちゃんとの軽いやりとりを終えて僕はベッドに横になる。
未羽ちゃんのお父さんは特に怒ってはいないというのは本当だろうか?高校生の分際で娘に手を出して怒らない?
それに考えてみればお母さんはどうなんだろう?娘に防犯グッズをいくつも持たせる親御さん達だし、“未羽ちゃんの”母親だよな?普段はまだしもキレたらヤバいんじゃないの?下手したらお父さんより怖いすらあるのでは?
一抹の不安が残りつつ波乱の一日を終えて僕は眠りについた。
翌朝―
いつも通りの時間に目覚めた。
いつもと変わらず朝食を食べ、制服に着替え、いつも通りの時間に家を出る。
少しふわふわした気分だが、まあ普通の一日が始まる、と思っていた。
「おはよ♪」
「うっおおお!?」
玄関のすぐ横で未羽ちゃんが待っていた。
完全に死角だった。
「もう、そんなビックリしなくていいのにぃ」
「近所まで来て待ってるんならメッセージくらい入れてよ」