香港国際学園〜外伝〜 70
「雪菜ちゃんもお風呂入るぅ〜?」
などと悠長に聞いてくる皐月の脇をすり抜け、何時の間にか洗濯と乾燥を終えたらしい制服をひったくり、竹を編んだ籠に放り込んであった刀と銃を確かめる。
…いぢめっ子の心理は意外と複雑らしい…暴力を通じて対象に何かを求めている…というモノから、何かと見下しながらも当人なりにほっとけない気持ち…。
雪菜自身そのどれに当たるのか解らないが…何故か『誰かの為に奔走する』自分が満足で仕方なかった。
「また来る!」
ロクな礼も言わず、雪菜は樹上から身を躍らせた…。
強化能力を併用してバランスを取りながら着地する…。
散発的な銃声がまた雪菜の耳に届いた。
影汰が三下学生…賞金稼ぎ共に見付かったのだろう…。
「踏ん張れ影犬っ!ヘタレなりにでいいからっ!!」
雪菜が百獣の森を駆ける…まるで道案内が付いたかの様な方向感覚に少々戸惑ったが…数分とかからず森を抜けるとそこは先程のゴーストタウン…廃墟の中、9mm機関けん銃を連射する不良の群れ。
「うらぁっ!出て来い辺里影汰ぁっ!!」
「ブッ殺したらぁっ!!」
たたたたたんっ!
「あうぅ〜…理都さぁ〜ん!?」
無数の拳銃弾は、影汰が立て篭って居るらしい倉庫に集中していた…。
その罵声と銃声に紛れて聞こえる情けない声は間違いなく影汰…
…イキナリ追い詰められてんじゃん…つーか泣くなぁあ!!さっきまでのハードボイルドはどこ行ったぁあ!?…
物陰で様子を窺いながら歯噛みする雪菜だったが…マシンガンを持った奴だけでも十人以上はいると見た。
「向こうは旧式銃に護身用のゴム弾だ!火力で押し切れっ!!」
ぱぱぱぱぱんっ!
破れた窓から飛び込んだ銃弾が跳弾となり、容赦なくその身を切り刻む。
「あうぅっ!?」
影汰の悲痛な叫びに身構える雪菜…五〜六人は瞬時に斬り倒せる自信はあったが…しかし肝心な所でエンジンのかからぬ強化能力のお陰でタイミングを逸していた。
「馬鹿野郎…お前になんかあったら…理都に会わす顔がねぇだろ…?」
憎々しげに呟く雪菜の心の叫びが彼に届いたか…無数の銃火に震え上がる影汰に変化が起きていた…。
倉庫に立て篭る影汰。
ライフルにすがりつき、放心状態でブツブツと唇を動かす。
「いじめる…嫌…死ぬ…怖い…。」
跳弾とガラス片の傷は浅いが出血箇所は多い…傷口から立ち昇る黒いオーラ…。
『シャバでドンパチ』の記憶が断片的に蘇る…女装をキッカケに鉄田理都と付き合う様になり、彼女の家に行く直前…セクハラ教師の手引きでヤクザに売り飛ばされ拉致された…。
真珠入りの巨根で肛門をえぐられる屈辱、理不尽な暴力への怒り…。
気が付けば拳銃を奪い見張りを皆殺し…暴力団事務所を襲撃…真珠入りヤクザに止めを刺した所で…黒服に包囲された…。
香港国際学園…校長直属の工作員。
彼等は…継ぎ接ぎのオカマ今泉ジェロニモの制止も聞かず、辺里影汰を出来損ないの不良能力者として『始末』にかかった。