香港国際学園〜外伝〜 69
紗季は影汰と交わりながら『強い牡』と呼んだ...その瞳は『貧弱な坊や』の色が強かったが、牡の輝きも見抜いていた。
「貴方には帰るべき場所があるの。」
「あう。」
皐月が持って来た影汰の私物...WW?U頃の物と思われる古びたライフルとリボルバー拳銃の収まったガンベルト...それらを手渡した。
「大丈夫...貴方なら出来てよ?」
「あぅう...。」
影汰は不安な声を上げながら...リボルバーのラッチを引いてシリンダーを開け、三発ずつクリップでまとまった六発の.45ACPの空薬夾を抜き取り、予備と換えた。
続いて色褪せた手動の旧式ライフル…ボルトを後退させ、固定式弾倉に五発の.30-06弾を装填、ボルトを戻して安全装置を掛けた。
…まだかなりの人数が待ち構えているにも関わらず、手持ちの弾はそれで全部…後は逃げ回りながら出鱈目に撃ってしまったのだ。
最後に念の為、長い銃剣をライフルに着けた…最後の最後はコレが頼みの綱…。
…身支度を終え、着剣したライフルを小脇に抱えた影汰を今一度、胸に抱き締める紗季。
「辺里影汰…貴方に大自然のご加護のあらんこと…。」
「あう!」
そして振り返りもせず菜乃花家を後にする影汰…(BGM:炎のさだめ)。
…つーかナニよ…ヒトが心配して迷子の犬っころ探しに来てみりゃ熟女とハメてるわ…主人公気取りでまたどっか行っちゃうわ…ヘタレの分際でハードボイルドなBGM聞こえてくるわ…アレ?空耳じゃないよね…
何か納得のゆかぬ展開と微妙な空耳?にぴくぴくと頬を歪ませる雪菜。
「人生色々あるから。」
雪菜の疑問を察した凉那、BSでアニメの再放送を見ながら無責任にフォローする。
ハードボイルドな空耳BGMの正体はアニメ主題歌だったらしい。
地獄を見れば心が渇いちゃったり、戦いは飽きちゃったらしい、クールな主人公がレンズ顔のロボットの足元でマグナム片手にポーズをキメていた。
「あちゃ〜…ヤバイわねラ〇ブドア…。」
母はモバイル付きのノートPCで株取引。
「ママぁ〜…お風呂沸いたわよぉ〜?」
トドメは奥から皐月ののほほんとした呼び掛け…。
「…え…ナニくつろいでんのアンタら…てぇか…どっから電気ひいてんの?」
「ソーラーパネルと水力発電。」
このマイペース原始家族と文明の利器のミスマッチにただ唖然となる雪菜。
「え〜と。」
「あによ。」
画面にかじりついたまま生返事する凉那。
…フル武装のレンズ顔ロボが、ミサイルやマシンガンで警官隊を蹴散らしていた。
「あの…『うわぁ箱の中に小人がぁ』とか驚くトコじゃない?」
「原始人?アンタの『巣』テレビないの?」
…裸族に原始人呼ばわりかよ…
雪菜はゴロ寝の凉那を思いっ切り踏んづけてやりたい衝動を必死で堪える。
「大丈夫…あの子なら心配ないから…。」
ふわふわ微笑みかける紗季ママ。
「あの子?」
そう…一枚の手配書頼りにパシリくん辺里影汰を追って来た雪菜だった。