香港国際学園〜外伝〜 49
さんざん苛めた相手がこうなったのは、何とも複雑な心境だが…素直に同情する気にはどうもなれない。
雪菜だけでなく、サラや量子もあまり好意的でないのも、後の自分達のある意味宿敵になる事を直感的に悟っていたのかもしれない。
その虚ろな眼の女装少年の方は、羽音に抱き締められ殆ど子犬状態…3人に比べて、こう言う事に疎い羽音は獲物ゲットにご満悦である。
「ホラ…記憶喪失のお隣サンですヨ。」
と、サラが雪菜に耳打ちする。
確かに…何時もならこの少年、辺里影太は雪菜に怯えながらも敵意を孕んだ視線を向けてくる筈だが…それはただ虚空を漂っていた。
この様子では…理都はおろか、雪菜の事も覚えていないのだろう。
「羽音…前科モンだけは止めときな…。」
羽音を咎める量子の一言に、保健医の言葉が思い出された…。
『シャバでドンパチやって能力覚醒』
だいぶ話の内容は繋がってきた…雪菜はとにかく羽音を影太から引き離す。
「あん…ゆっきぃ?」
「あ〜。」
「ごめ〜ん…ゆっきぃ、浮気じゃないからぁ。」
たとえ一時でも、最愛のパートナーが汚された…少なくとも雪菜はそう捉えていた。
羽音の方はそのへんの事情など理解していないようだが、この出来事が後々まで…他の奴隷ズが影太と和解した後も…雪菜と影太の不和の原因のひとつであろうか。
「あぅ?」
何が起こったか解らないが…ともかく羽音のハグから解放された影太は、細長い鞄?を担いだまま去って行った。
「あ〜っ。」
犬猿の仲とは言え…懐かしい顔。
しかしその再会は微妙なモノとなった…。
「イイんデスかユキナ?行っちゃいマスよ?」
「知るかよ…あぁいうナヨナヨした野郎共は…こーいう学校で荒波に揉まれた方がいーんだよっ!!」
…その頃、もう一人の『ナヨナヨした野郎』天地くんはというと…?
「可ぁ愛ぃい〜!!」×大勢
…正に荒波、萌え原人達に包囲されていた…。
「たすけてぇ〜!?」
情けない悲鳴さえも…狩猟民族の本能を焚きつけるだけか。
「ええい!こうなりゃ腕づくよっ!!」
しまいには投げ縄、吹き矢まで射掛けられる始末…サル並と思いきや、道具を使う知恵はあるようだ。
「く…あぅっ!?」
吹き矢が肩口をかすめ、悩まし気な悲鳴と共に膝を折る天地…。
痺れ薬の類か?効き目は弱いが、まとわり付くような毒気がその身を蝕んでゆく…。
「ほぉらイイ子ねぇ。」
「おねいさん達と遊ぼ?」
淫らで卑猥な笑みを浮かべながら、輪を狭めてゆく萌え原人達…。
…駄目だ…このままじゃ!?…
歴史の陰に君臨する異能者の名門のひとつ、神樹家の長男として生まれた天地。
修行の為…厳しい姉に一族の長として認めて貰う為、敢えて性と暴力の渦にその身を投じた…。
『天地、私は認めんぞ!!』