香港国際学園〜外伝〜 104
青年が、自分を包囲する一団向かって警告する傍ら。
佐藤少年(偽名)が内心で『あぁはなりたくない』と評価した『建造物』の玄関?から、その住人がヒョコッと半身を乗り出していた。
萌えアニメを気取ってツインに結った髪から、薄っすら玉葱臭を漂わすローティーン少女。
煤けたセーラー服の胸元には『如月嶺那』と記された名札、後に『伝説の薄幸少女』とまで語られる野良学生である。
彼女はどこか媚びる様で、それでいて小馬鹿にした様な表情で青年に『口止め料』の一言と共に掌を差し出していた。
揉め事を嗅ぎ付けるや小銭をせびり、さりげなく反対の手には小型の安物リボルバー。
学園混乱期を卑しくも逞しく生き延びる少女の姿であった。
青年がその程度どうこうという筈もなかったが…後で赤人に請求するか…という軽い悪戯心、刀を握る手で器用に財布を抜き、あるだけの札を寄越してやった。
「この位で足り…。」
「うっさい!バーカ!」
しかし何を勘違いしたか薄幸少女は…青年が金持ちっぽいから多分こっちの方がお徳と判断したのだろう…財布の方を引ったくるなり、ネグラも何も放棄して逃走。
青年の記憶だと財布の中身は缶ジュース代にも満たない小銭。
あの様子では財布本体をブランド物と見抜き、故買屋に流す様な目利きの知恵もあるまい。
きっと彼女はこの先、そうした要領の悪さで苦労するのだろう…とその背中を見送った。
そうした貧乏エピソードの数々から彼女は(一応)エース級の能力者として成長するのだが、知ったこっちゃない先の話。
青年はしばし、包囲網を敷く一団の前で手持ち無沙汰にその札束をひらめかせていた。
恐らく示談金どうのといった交渉なんぞ興味を示すまい10代男女の集団。
その手に在るは思い思いの刀槍長柄に弓鉄砲、或いは徒手空拳に武術の型、得意の武器こそ我が得物と構える…国籍や人種、いや種族すら曖昧な集団。
暴力や無法、いやさ『武』の一文字で身を立てんとする独特な気勢を総身から放っている。
「茶番、は、その辺、に、して、頂き、ます。」
その一人、恐らく自意識を持った生き人形の類であろう、蒼白な肌を持つメイド服姿の女生徒は、途切れがちな台詞に併せ木製素材の軋みを立てていた。
「短命なる人の子ならばこそ、その寿命、もう少し大事に使ってはどうかね?」
続いて口を開いたのは長身痩躯、闇にも似た地黒の肌に尖った耳鼻、どことなし外見年齢と一致せぬその言動の少年。
青年に向けて弓引きながら時折、両隣の仲間に『鉄を近付けるな!臭いんだよ!』と訴える彼の衣服からは、確かにボタンからベルトのバックルまで一切の金具が見当たらない。
森の妖精族だろう、それも無論闇の。
その他ダンピール、改造人間、妖刀使い。
その集団、概ね八割が人外、残る二割は負属性の超常能力を持ち合わせた人間…共通点は常人にさえ視認できよう程に放出される黒いオーラの輝き。