香港国際学園〜外伝〜 103
「似たような位置付けの苗字ならよ?せめて田中か鈴木…。」
「生憎だが。」
何が気に障ったか、軽口を遮った青年の表情が珍しく、幾らかの怒気を孕んでいた。
少年は一瞬萎縮しつつ、せめてもの自尊心で書類を捲っていた指先の震えこそ堪えるが、その憔悴は隠し切れない。
暫し間を置いて、青年がお茶を濁す様に補足説明を加えた。
「ん…手頃な田中姓は見付からなかったし…この学園で『鈴木』と付けばかえって目立つんだな…。」
「オーケーオーケー、あんたがボスだ。」
青年は対等に近い同志として不遜な少年を迎えてはいたが、多少なりとも主従関係は健在の様だ。
「そして…今日から俺は少年AかMr.Xか…兎に角どこぞのナニガシって奴だな。」
「早いとこ目通しした方が良いよ?今時分役所は混むから…。」
青年の見据える先、一目して人外と判る集団…獣人、妖精、アンデッド、はたまた機械化人。
僅かに含まれる人間らしき者も何処となし、外法の類に手を染めた部類。
それを率いる少年…妙に大人びた男前、背に『傾奇御免』とあしらった綾錦の陣羽織姿。
「魔界騎士…ゴホン…一年M組の旗挙げであるっ!Yes!」
青年は、その『傾奇御免』から伝わって来る何処となし暑苦しいオーラには些かウンザリ顔を見せていたが、何かしら値踏みするかの様な視線は崩さない。
「見た所、ひとクラス丸ごとの申請みたいだなぁ…役所にウチの内通者が居るつっても、順番待ちまではスルーさしてくんないから、その積もりでね?」
「げぇ?マジかよっ!」
「ちょっとした不幸と手違いが重なって…あんなんなっちゃう生徒だって…いるんだよ…。」
…そうやって…青年が少年の耳元、小声で囁きながら指差す先…
『段ボールその他廃材を緻密に加工した建造物』
…があった。
入口らしきビニールシートの切れ端の脇、カマボコ板か何かでコサエた表札には『如月』の姓…ビニール紐と手頃なフェンスで干された洗濯物から女子生徒と判った。
「…うわー…洒落になんねー…。」
「わかったら役所にダッシュ!だよ『佐藤』くん?」
あぁはなりたくないといったように横目で『建造物』を見ながら走り出した。
遠くなっていく背中を青年が見つめる。
「さってと、A組にスパイも潜り込ませたことだし今打てる手はだいたい打ち終わったかな」
少し長めに息を吐き出し呟いた。
「だから、」
そう言い刀を抜き放つ。
「君達には少し大人しくしていてもらいたいんだよ」