普通の高校に女子限定クラスができた理由 34
「なんか面倒くさいな」
「いったい何するつもりなんだろ」
愛華とちなみが着替えながら愚痴る。
同じく着替えている奈津美はどこかソワソワしている感じだ。
「なっちゃん、どうしたの?」
「えっ………別に…」
恋の呼びかけに動揺しながらも奈津美は何も答えなかった。
グラウンドとの位置関係により、運動部の部員の中には部室に体操着を置いてそこで着替えるものもいた。
水泳部の桃子と智里もそうで、着替えるように指示されてすぐに教室を出ていた。そのあとどこに行くのか、グラウンド以外だったらクラスメートからスマホで情報をもらうことになっていた。
部室の扉を開くと、梨沙子がびくっとして顔を上げた。梨沙子はスマホを打っていた。
「梨沙子先輩、もう授業は終わりですか?」
「あ、いや、自習なんで、部室で自習してたんだ…君達もこんな時間に珍しい」
「突然体操着になるように指示されたんです」
「あの担任から?」
「はい、理由もまだ何も分からなくて」
「……2人とも、気をつけた方がいいかも」
梨沙子が神妙な表情をして2人に告げる。
「君たちのクラスの担任、ちょっと…よくない噂があってね」
「ホントですか?」
そんな話をしていると、集合場所を伝えるメールが2人に届く。
「では、気をつけて、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
桃子と智里が部室を出ると、岩上とすれ違った。二人は挨拶した。岩上も梨沙子と同じようにギョッとし、部室へと入っていった。
”あの二人、今からヤルんだな“
桃子と智里はお互い口には出さないまでもそう思った。
着替え終わった一同、グラウンドの端の方の集合場所へと歩いていく。
やや遅れた奈津美。
”あれ?“
すれ違った男がいた。黒い服は着ていなかったが、この前の放課後に会った男のような気がした。
男はすれ違う際、奈津美の方をちらりと見やった。
立ち止まることはなく、会話を交わすことももちろんなかった。
(あの人、誰なんだろ)
そう思う一方、忘れようと思ったあの日のことを思い出してしまい、少し寒気がした。
やがて集合場所に8組の生徒全員が集まる。
泉もジャージ姿でやってきた。