普通の高校に女子限定クラスができた理由 1
県立緑台高校。
特別進学校でもなく、ごくごく普通の公立校。
通う生徒はほとんど地元民。
そんな高校だけど、この春からは何かが違った―
「緑台…ここかぁ」
校門の前で立ち止まって、確認する一人の少女。
その姿はまさに『美少女』といっていいレベル。
周りの男子生徒もにわかに噂話するぐらい。
真新しい制服が、新入生だということを示していた。
校門をくぐり、しばし進むと人だかりができている。
掲示板のようなボードに、数枚の紙が張られている。
新入生のクラス発表の用紙。
「私はどこかな…?」
人垣の外から何とかしてみようとする。
幸い、彼女は視力はいいので。
「1年8組、ね…」
8組あって、その8組。
「なんだか、離島気分がするね…」
はぁ、とひとつ溜息をつく。
「ワケあり生徒でも集めましたって感じかな…というか、女の子ばかり…?」
その通り、8組の生徒は女子しかいない。
「あの〜」
後ろから声がした。
振り向くと、そこには小柄な少女がいた。
身長差は10cm以上あろうか。
「…えっと、何か」
「…私のクラス、どこかわかりますか?」
尋ねてくるのも無理はない。
今の状況では、彼女の身長では到底見えるはずがない。
中に潜り込んでもいいが、屈強な男連中もいるから、下手したら命が危ない。
「…は大げさか」
「えっと、あなたの…」
「柳井奈津美」
そういって少女はニコッと笑う。
可愛いな、と思った。
もう一度少し背伸びして、彼女の名前を探そうとする。
少し前が開けたのではっきりと見ることができた。
しばらくして、彼女の名前を見つけた。
彼女―柳井奈津美は、自分と同じクラスだった。
「見つかりました?」
「うん、8組」
「ありがとー」
「あ、待って」
そそくさと歩いていこうとした奈津美が振り返り、キョトンとした顔をする。
「私も、同じ、8組なんだ」
それを聞いて、奈津美は微笑んだ。
「一緒なんだ。よろしくね!」
「うん、よろしく」
「…えーっと、あなたの名前、聞いてない」
「あ、そっか」
何故今までそれを忘れていたのか。
彼女には、ちょっと他人とは違う過去があるからだ。
「紺野恋」
「へぇ、可愛い名前だね」
「恋と書いて、レンって読むんだ」
「うわぁ〜、ステキ!」
「うん、私も、自分の名前、大好きなんだ」
「よろしくね、レンちゃん!」
そんな話をしながら、少女二人―恋と奈津美は、自分たちの教室へと向かった。
「なあ、礼、この学校って男女比半々くらいじゃなかったか?」
「そのはずだけどなあ、何度数えても、うち男子19名いるのに、女子12名しかいない」
礼、と呼ばれた男は、ここで声を落とした。
「しかも平均かそれ以下の子しかいない…合格発表のときも、クラス分け発表のときもあんなにかわいい子いたのに」
「8組ってこっちじゃないんじゃないの?」
「そうみたいだね…ほんと離島だね」
「女の子だけの離島のクラスってほんと謎だよね」
礼たち二人の男子は、少し開いている扉からその二人の姿を見て、その会話が聞こえた。
「そう、ああいうかわいい子に、クラスにいてほしい…8組?」
「女の子だけのクラスだってな」
二人は次の言葉を言う前に立ち上がっていた。
「「見に行ってみよう」」