普通の高校に女子限定クラスができた理由 25
桃子と智里は一緒に帰った。
「ねえ、うちのクラス『男子が苦手な人が集まった』っていう噂って聞いたことある?」
桃子はさっき聞いたことを智里に尋ねた。
「うーん、ないけど…見ず知らずの人に、襲われた子がいる、その子は男を避けたいと思っている、とは、聞いたことある。誰かわからないけど。その話がそういうふうに伝わったのかもしれない」
「そうなんだ」
翌日、知宏は、クラスの運動部の友人二人だけにそっと昨日の晩の話をした。彼らも、多かれ少なかれ似たような秘密を持っていたので、それを残りの二人に話した。それらは、彼らの中だけで秘密になった。
そのため、同じクラスであってもそういう話が運動部と縁が薄い直樹や礼の耳に届いたのはかなり後になってからだった。
それから数日後。
「もう誰もいないのかぁ…私も帰ろ」
授業後にトイレに行っていた奈津美が教室に戻ると、室内にはクラスメートの姿はなかった。
一人帰り支度をして、教室を出る。
すると…
「あれ、泉せんせー……またあっちに行くんだ」
薄暗い廊下を歩く担任、泉の姿があった。
奈津美は、ちょっと好奇心を持って、泉の向かう方向に行ってみた。
「君、どこに行くの?」
奈津美が角を曲がると、黒い服を着た男が行く手に立った。奈津美にはその男に全く見覚えがなかった。
「先生が、こっちにいったから、何があるんだろうなー、って思って」
「じゃあ、君には用はないね。帰りなさい」
「立入禁止なのー?」
「いや、そういうわけじゃないが…」
その男は困っていた。関係者以外をここから通さないミッションを与えられていて、従わないなら力でどうにかする許可も出ていたのだが、このようにどちらともいえないような場合の対応方法を用意していなかった。
「先生に何か用事でもあるのか?」
「別に…うちのクラスの担任の先生だから…」
小柄な奈津美には、黒服の男はとても大きく見えた。
同時に、この男は教師には見えなかった。
奈津美は小柄ではあるが、胸の豊かさは他の女子生徒にも負けていなかった。
男の視線もそこに注がれる。
その男に、だんだん奈津美を「力でなんとか」したい気持ちが湧いてくる。しかし、どんな組織のメンバーでも上に報告する義務からは逃れられない。その男は「力でなんとかせざるを得なかった」と言い訳しても上が納得するような状況を作れないかと考えた。