普通の高校に女子限定クラスができた理由 180
「「よろしくお願いします」」
優梨子と奈緒美は正座して頭を下げた。
吉沢が来たのを合図に、いつものように、お湯を沸かし、お茶をたてて、と活動が始まる。吉沢は座って見守る。
「水口君も、だいぶ慣れたようだな」
「はい、おかげさまで」
にこやかに接する優梨子。
最初は緊張して硬かった表情が、今では見違えるほどににこやかで自然なものになった、と奈緒美はひそかに思っていた。
白髪が目立つベテラン教師の吉沢。
常に穏やかな表情で優しく生徒に接する、生徒間では評判のいい方の教師である。
優梨子も、茶道部に入ってから彼に対しての好感度は上がっていた。
吉沢は奈緒美の様子を後ろから見た後、優梨子の後ろに戻ってくる。そして、吉沢の息が優梨子に感じられるくらいまで近づいてくる。
“いらっしゃった”
優梨子の胸は高鳴っていく。
それでも、手は何事もないように動かしていく。
「これから、してくれるかな?」
優しく穏やかな口調で囁きかける。
これこそが、優梨子の胸を高鳴らせる一番の存在。
吉沢の手が優梨子の肩にかかる。
あからさまな拒絶はしない。
今はむしろもっと来てほしいとすら思う。
「少々、お待ちくださいね」
吉沢は改めて正座する。奈緒美がお茶菓子を持ってくる。三人で作法に則って頂く。
優梨子の、慣れたとは言っても緊張する状況は続く。
今日は優梨子がお茶を提供する番だ。
お茶を注ぎ、かきまわしていく。ここで泡を立てるか立てないかが流派によって違う、と初期の頃教わった。