普通の高校に女子限定クラスができた理由 134
「おい、礼、危ないぞ!」
隣の班から声が上がる。礼が包丁を逆さにしてたまねぎを切ろうとしていた。
その声に紗理奈はすぐにそのテーブルに行った。
「そのメガネ曇ってるじゃない、外したら」
「いえ、水中メガネをしたらたまねぎ切っても涙出ない、って聞いて」
「それでも包丁が見えてないんじゃ切れないよ」
「あの、手伝おうか?」
紗理奈の後ろから、恋と同じテーブルにいた愛が近づいてきて礼に声をかけた。
「お、おう…」
「恋ちゃんがやってるみたいに、切り方にはコツがいるの」
愛が礼の手を優しく支える。
(なんかあっちは雰囲気がいいな)
恋は愛が優しく教えているのを横目に、涼しい顔したまま最後の仕上げに取り掛かっていた。
愛は切り終わった時点で恋たちのところに戻った。
恋たちの班はもう切り終わっていてカレーが煮えるのを待っているところだった。
「このまま、付き合っちゃう感じ?」
恋は低い、小さい声で愛に言った。
「まだそこまでは考えられないな」
愛は笑って恋の問いかけをあしらった。
ただ、まんざらでもなさそうだな、と恋は感じていた。
やがてすべての班がカレーを作り上げる。
一角からいい香りが漂う。
「恋ちゃんと愛ちゃんがいるからうちのカレーが一番だねっ!」
「柳井さん、特に何もしてないんじゃ…」
「なっちゃんは包丁の持ち方が危なっかしいから他の仕事を任せたんだよ」
「家で料理とかしないの?」
「うんっ」
奈津美はこともなげに応えた。
そうして一同食べ始めようというときに、隣の班から光一が恋たちに近づいた。
「あの、興津さんのおかげでうちの班助かった。ありがとう」