熟女クエスト 6
「マリア、リオ君ったらホントいい子ね。さっきも井戸から水を汲んでくれたりしてくれて大助かりよ」
にこにことエリーナ。
「エリーナお姉ちゃんスゴいんだよママ。杖をぴゅんってふると火とか出せるんだ!」
リオの方もエリーナの使う魔法を見て興奮しているようだ。
なんだ、心配して損した。
一人心の中でこぼすと、マリアもテーブルに近づいた。
「あ、マリアもリオ君も座って。すぐにご飯にしちゃうから」
鍋からよそった野菜たっぷりスープや黒パンのサンドイッチ、ハムやチーズにミルクの入った水挿しを運びながらエリーナ。
もっとも運ぶとは言っても、杖を一振りして、魔法の力でだが。
しばらくは三人で和やかに食事をとっていたが、やがてマリアが切り出した。
「エリーナ、今後のことなんだけど……」
そのマリアの言葉にエリーナは真剣な顔になる。
「そのことなんだけどマリア、迷いの森に行く前に一つこの町でリオ君のレベル上げをするのはどうかしら?」
そういってあらかじめ用意していた一つのアイテムをエリーナはマリアへと手渡した。
魔法アイテム『プロパティチェッカー』ーー個人の持つ能力値を数字として表してくれるガラス製のカードである。
チェックしたい人の額に押し当てることで、現状の能力値が一目で分かるという逸品だ。
「リオ、ちょっとジッとしていてね」
受け取ったマリアは隣に座るリオの額にアイテムを押し当てる。
ピッと音が鳴り透明だったガラス版に黒い文字が浮かび上がる。
「レベルゼロの勇者かぁ……」
まだまだなんの修行もしていないのだから当然といえば当然だが、マリアの口から少し悲しげなため息が落ちる。
「落ち込まないでマリア。そこでさっきの提案、
この町でクエストしてリオ君のレベル上げよ!」
エリーナが気落ちするマリアにことの詳細を語った。
エリーナの住むこの町の裏手には小高い山がある。
その山の麓にある洞窟に、最近ドワーフと思しき小人が住み着いているらしい。
「ああ、なるほどね。そのドワーフを退治したらいいのかしら?」
「いいえマリア。この町の町長は、どうもドワーフの持つ優れた鍛冶の力で武器や防具の町にしたいみたいなのよ」
なるほど、とマリアは頷いた。
王城の隣に位置するこの町だが、特に目立つ産業はない。
だが、ドワーフと組んで高品質の武器や防具を生産することができれば、魔王の襲来で危機感を感じている現状、かなりの需要が見込めるということだ。
「ま、当座の目標としてはちょうどいいかもね」
「そうこなくっちゃ。じゃあリオ君? ご飯食べ終わったら3人でダンジョン行こっか?」
「うん、行く行く!」
内容をちゃんと理解しているのかいないのか、リオは大喜びでダンジョン行きを了承した。
そうと決まれば早くしようと、三人(実際のところリオは大して何もしていないが)は荷物を整え、エリーナの家から五分ほど歩いた町長の家へ向かった。ドワーフたちに正式にこの町で鍛冶師として働いてもらうことをお願いする手紙を書いてもらうためだ。
「いやー、エリーナ様が勇者パーティーの一員だとは聞いていましたが、まさか勇者様に直接来ていただけるとは思いも寄りませんでした」
大きな執務室で、見事な白髪をなでつけた初老の男が満面の笑顔で告げる。
露出過多なマリアとエリーナの格好にも、年若いというよりもいっそ幼いといえるリオにも不審そうな表情を素振りも見せず対応するのは、なるほど町長としての貫禄だろう。
この好々爺然とした町長の態度にリオは直ぐに懐いたようで、ドワーフ宛ての手紙を書く町長にいろいろと話しかける。