スワッピング ハイスクール 53
「水上バスって初めてですよ」
「ね、面白いカタチしてるね」
田舎育ちの恵太と美香はテンションが上がっている。水上バスと言っているが、実際は水陸両用バスでまずは陸上を走る。
海沿いのこのエリアは観光客にも人気で、乗客はそれなりに多い。
4人は比較的長いコースの切符を買った。
そして、乗った水陸両用バスは、まずは陸上のバスとして走り始めた。
乗客は、彼らから見ると親世代や祖母祖父世代くらいが多く、十代と思われる人はこのバスには乗っていなかった。
「昔は、結婚するまでに、こういうのに乗ったりとか、二人でいろいろな経験を重ねてから、という道のりがあったんだって」
たまきが、昨晩のドラマを思い出したようにそう言った。
「私たち、恵ちゃんと二人で出かけたことってあったっけ?」
「うーん…買い物行ったじゃん」
「それ、結婚するって決まってその準備に買い物に行ったんじゃない」
恵太と美香は、結婚するまでのことを思い出してそんなことを言い合った。
「剛さんは、優子さんと結婚するまでに、二人でどこか出かけたりしたんですか?」
「無いな、学校があるとなかなか難しいよ。せいぜい映画を見に行ったり程度だな。卒業したら家族で旅行したいと思ってるけど」
十代のうちは兎にも角にも、子孫繁栄と教育を受けていることもあってか、二人きりで出かける暇があったらエッチみたいな風潮があり、そのせいか、デートも近場で済ませがちである。
ビルとビルの間を抜けて、海へとつづくゆるい下り坂に入った。
「これより、海に入ります。3、2、1、…」
車内に流れる音声はそのように案内した。
ザッパーン…
水しぶきがあがって、バスは船になった。
どこからともなく拍手が起こり、4人も拍手した。
水上バスは、岸を後に、どんどん進んでいく。
港の風景から、だんだん工場遺跡に差し掛かってきた。
「ここから、20世紀の我が国の繁栄を支えた工場の跡地のかずかずをご覧いただきます…」
「歴史の授業、思い出したか?」
きょとんとしていた恵太に、剛が声をかけた。
「はい、なんか、実物を見て、不思議な感じです」
人口の低下に伴い労働の環境も変化した。工場はより効率化が進み、ほぼ人の手の必要がないものになっている。
そのため、旧時代の工場は歴史的な遺産として数ヶ所残されている程度である。
「昔の工場のこの剥き出しの鉄骨やパイプの感じ、カッコイイですよね〜」
昨今の工場は、徹底的な省スペース化と全自動化により外観は非常にシンプルで味気ない物になっている。そのおかげで、少ない人口でも豊かな生活を謳歌でき、就職難などの問題の解消にもなっている。