ナースcalling! 7
「高原?」
「ミキだよ、ミキ。マイハニーっ!」
アキオは何故かくるっと一回転してみせる。
懐から薔薇が出てきそうなくらい綺麗なフォームは技術の高さを窺え、変な慣れさえ感じられた。
「あぁ……噂の彼女さんですね……」
耳にタコが出来るくらいその名を聞いているヒロトは、思わず苦笑を滲ませる。
「で、お二人は……」
「同・僚!」
途端、アキオはヒロトの首に腕を絡める。
「痛っ! 痛いっス! いたたたっ……」
ヒロトの苦笑は苦痛に変わっていた。
「で、何してたんです? 息を切らしてましたけど……?」
「いや、それは……」
歯切れが悪くなるヒロト。
まさか、アキオからの粋な差し入れを二人がかりで必死に隠していたとは言えまい。
「あ、あれだよ。元気の出る舞を披露してたんだっ」
アキオの意味不明な発言にヒロトは肝を冷やす。
「……元気の出る舞?」
「そそ。ハルカちゃんも見る?」
「結構ですっ」
満面の笑みでバッサリ切り捨てるハルカだったが、ヒロトもアキオも内心ほっとしていた。
「……で、ハルカちゃんはどうしてここに?」
「あの……私、こう見えても看護師なんですけどっ」
ツーピースのナース服。
その上着の裾を引っ張って出で立ちを強調させるハルカの声色には、ご立腹な様子が窺える。
「で、その看護師さんが車椅子の使い方を説明しに来たんですっ」
今度は胸を張っている。
「車椅子が使えるからって、勝手に病室を出て良いというわけではないですからね?」
ハルカは釘を刺しつつヒロトに歩み寄った。
「いやぁ、俺もミキにおんなじようなことを言われたなぁ……」
アキオは二人のやりとりに自身の思い出を重ねる。
「俺の後輩とミキの後輩……うんうんっ。運命を感じるだろ? ヒロト」
「どんな運命なんですか、それ……」
「人生を共にする運命だっ」
「「え!?」」
アキオの言葉に、二人から同時に声が上がる。
「どうよハルカちゃんっ。コイツは素っ気なく見えるけどほんのちょっとシャイなだけで、根っこはすんごくいい奴なんだよ」
「え、あのっ……」
ハルカの中で、秋吉ヒロトという人物の見方が一瞬だけ変わった。
患者の枠を出て、一人の男として捉えてしまったのだ。
必死になってアキオに抗議するヒロトからは、いつもの無愛想な難しさを感じられない。
寧ろ、子供みたいにはしゃいでいるようにさえ見える。
馴染みやすい一面も持ち合わせている……そんなヒロトのギャップが、ハルカの胸に刻み込まれた。
患者ということで全く気にしないようにしていた容姿も、寝間着姿でありながら、悪いものではない。