ナースcalling! 5
「フフッ、全く大したものね」
ミチルは黒く艶めく長髪を耳に掻き上げながら、そんなヒロトを笑った。
その妖艶な仕草、佇まい……ヒロトは、自分が値踏みされているかのような感覚にも陥る。
「鉄骨の下敷きになっといて、全治2ヶ月の骨折で済んでるんだから。あなた、相当に運が良いのね」
ミチルの皮肉混じりの発言にも、ヒロトはギブスを見つめながらさしたる反応も見せない。
他人を遠ざける……人付き合いを拒むかのような態度に、ミチルもやれやれと溜め息をつくしかない。
「まあ、経過は順調みたいだから、今はとりあえず安静にすることね……」
「いよーっす! ヒロト、生きてるかぁ?」
ミチルの言葉を遮るように、場違いに威勢の良い挨拶が飛び込んできた。
ヒロトが声のした入口に目を遣ると、見慣れた若い男が手を振り立っていた。
「アキオさん! すいません、わざわざ」
無愛想を決め込んでいたヒロトが、アキオと呼んだその男を見るや恐縮し、表情を変えた。
彼、吉永アキオはヒロトの同僚であり、ヒロトが心を許す先輩であった。
その人懐っこい笑顔は、見る者を惹き付ける。
「てて……」
アキオの顔を見て身を起こそうとするヒロト。
だが……さすがにそれは無理だった。
「ほぉら!まだジッとしてなさい」
ベットの上でモゾモゾと動くヒロトを呆れ顔で諫めるミチル。
「お……おい!動くなバカ!」
自分の登場がもたらした、ちょっとした事態にアキオがアワアワと近づいてくる。
「すんません」
バツが悪そうな顔をしたアキオ。
後頭部に手を当てながら顔を前に突き出す様にしてミチルに謝っている。
「い……いや、俺が……」
まだ動く事を断念していないヒロト。
「「だから!動くな!」」
アキオとミチルから同時に突っ込まれるヒロト。
今度はヒロトがバツな悪そうな顔で、数少ない自由になる部分の首を竦めて見せた。
以外で動く事はやっと断念したようだ。
「とにかく無理はまだダメですよ……また来ます」
ミチルはどことなく、そそくさとした感じで病室より出ていった。
「相変わらずだ……綺麗?怖い?どっちだ?」
アキオがミチルの消えた先を見つめながら小声で囁いた。
「さぁ?ってか知ってるんすか?」
「俺ん時もあの先生」
「そーなんすか」
ひとり納得するヒロト。
「おぉ……そうだ、そうだ」
そんなヒロトを余所にアキオがゴソゴソと自分のカバンを漁りだした。
「なんすか?アキオさん」
ヒロトは首をアキオの方に向けた。
何度か動こうとしたお陰で強張っていた筋肉もほぐれてきた。
「ほい……」
アキオが何かをヒロトの腹の上に投げ出した。
「てて……」
もう一度……上半身を起こそうとするヒロト。
「おい、む……」
「だいじょぶっす……いてて」
筋肉痛の様な痛みを押して、ヒロトは上半身を起こした。