PiPi's World 投稿小説

ナースcalling!
官能リレー小説 - ラブコメ

の最初へ
 19
 21
の最後へ

ナースcalling! 21

が、鈍感で感情の機微に疎いヒロトと、小難を如何に切り抜けるかしか頭にないアキオが、それに気付く由などなかった。

「そうだっ! ヒロト君、コーヒー飲みたいだろうっ?」

「い、いや、別に……」

 痛々しさが垣間見える笑みを浮かべながら、アキオが強引に切り出す。
が、その必死の策にも、ヒロトは乗って来ない。

「そうかそうか、分かった! 先輩が奢ってやるから」

 アキオは尚も強引に火の上をひた走る。
こうなれば、後は逃げの一手しか残されていない。
ヒロトの乗った車椅子のハンドルをひっつかむと、一目散に病室を退散する。

「ごめん、チサトちゃん! ヒロト借りてくよー!」

「えっ? ちょっ、アンタ……」

 チサトが静止しようとするも、すでに男2人の姿は病室になかった。
訪れた静寂の中、思わず漏れた溜め息がチサトの心を一旦落ち着かせた。
チサトは若干紅みを帯びた頬を撫でながら、口を尖らせる。

「まったく、何なのよアイツらは」

 チサトは呆れ気味に呟くと、成年雑誌を内に抱え乱れたシーツを整える。
と、ふと床に置かれた雑誌が一冊、彼女の視界に入る。
恐らくはヒロトが焦って隠そうとした内の1つなのだろう。
何の気なしにそれを拾い上げたチサト。
彼女自身、この手の雑誌に触れるのは初めてではない。
職業柄、患者の持ち物として目にし、また手に取る事も少なくはなかった。
事務的に片付ければ済む話であり、実際に幾度もそうして来ていた。
今回も、いつも通りにするつもりだった。
しかし、不思議とチサトはその淫心掻き立てる表紙に見入ってしまう。
そしてそのまま、恐る恐る適当にページを捲る。

「えっ、わっ……」

 その目に飛び込む色欲の世界に、チサトは生娘の如き反応を見せる。
思わずページから目を逸らしてみたものの、吸い寄せるかのように好奇心が視線を戻す。

「ふぇぇ、えぇ……?」

 そのページは、風俗店のレポート記事だった。
ショーツ以外に身を纏う物がない、年若き風俗嬢。
浅黒い肌の屈強な男に背後から乳房を愛撫され、恍惚とした表情を浮かべている。
写真越しながら、喘ぎ声すら聞こえてきそうな生々しい光景。
チサトは視界をチカチカさせながら、何かに動かされるようにページを捲っていく。

「こんなっ、事っ……?」

 成年雑誌を片手に、チサトは思わず口を手で覆う。
耳も頬も紅く染め、チサトはその表情に驚嘆の色を浮かべた。
そうさせたのは、雑誌の中、先程乳房を愛撫されていた風俗嬢。
今度は風俗嬢が男の男根をくわえ込み、濃厚な奉仕を見せていた。
男は快感に顔を歪め、風俗嬢は艶めかしい視線で男を見上げるように男根を頬張る。

「こんなの、アリ……?」

 チサトにとって、今まではささやかな想像という壁の中の世界。
それは軽々とその壁を超え、チサトの本能に語り掛けた。
ゴクリと生唾を飲み込み、チサトは胸の鼓動の高鳴りを感じた。
そして同時に感じる、ある事も。

「私、も……?」

 誰に聴かせるでもなく呟くチサト。
そう、チサトも紛れもなく、いつかは悦びを知る女性なのである。
その事実は、否が応でも、チサトの身体を熱となり流れ巡る。

「って! 何やってんのよっ?!」

 しかし、チサトは自らへの突っ込みと共に正気を取り戻す。
雑誌を閉じるや否や、半ば八つ当たりのようにベッドに叩きつけた。

「はぁはぁ……何を汗かいてんだか……」

 チサトは汗ばむ顎を手の甲で拭い、自らを呪うように息を吐く。
ほんの小さな事であれ、自身にとって初めてとも言える程、女を実感したチサト。
その事実に焦りを隠せないものの、何とか自らに落ち着けと言い聞かせる。
何度か深呼吸した後、チサトは胸に手を置いた。
冷静さを取り戻したチサトは、ベッドの上の雑誌を再び手に取った。
表紙を一瞬眺めるものの、溜め息を吐きながら脇の机に置き直す。

「仕事、戻ろ……」

 軽い脱力感を覚えながら病室を後にするチサト。
脳裏に一瞬浮かんだぶっきらぼうな顔を振り払うように、彼女は自らの頬を張った。

 *

 静寂が大半を占める病院構内。よほど急患が重ならなければ、喧騒が生まれる事はない。
そんな中を、先程病室を喧しく騒ぎ立てた男2人が行く。

「いやぁ、参った参った。まさかハルカちゃんが休みだなんてな」

 ヒロトの乗った車椅子を押しながら、アキオは若干開き直りの窺える口調で呟く。

「ホント、勘弁して下さいよ。増してあの娘初対面だったんですよ」

 対してヒロトは、頬杖をつきながらうんざりとした口調で返す。
アキオは余り悪びれる様子もなく、片手を顔の前に遣り、略礼で謝意を表す。
アキオに押されて動く車椅子には、不思議と違和感を感じない。
それは、ヒロトがアキオと人間性を理解し合える仲という事もあるのだろう。
勝手知ったる関係であるからこそ、ヒロトはアキオに信頼を委ねられる。
とは言え、時折今回のような暴挙に出る事もあり、決して心休まる間柄ではないのかも知れない。
それでも、ヒロトはアキオとの触れ合いにはある種の心地良さは感じている。

「それにしてもアレだな。この病院は美人が多いよな」

「は? そうすか……俺よく分かんないですけど」

 病院の廊下を行きながら、突然アキオが切り出す。

SNSでこの小説を紹介

ラブコメの他のリレー小説

こちらから小説を探す