ナースcalling! 18
車椅子をチサトに押され、廊下へと出たヒロト。
ちょうど曲がり角の所で白衣を着た長身の優男と鉢合わせした。
「具合はどうですか?」
ヒロトより一回り近く年上のその白衣の優男は、そのややタレ目の優しげな顔に、シワ深い人の良さげな笑みを浮かべヒロトの顔を覗き込んできた。
無論、その顔に見覚えのないヒロト。
「はぁ…まぁ…」
何とも煮え切らない態度で応える。
「よかった……それじゃ」
白衣の優男……本当に良かったといった表情を浮かべ、ヒロトの前をあとにした。
ヒロトがチサトに今のは誰と聞こうとした瞬間。
「しぇんしぇ!待つぜよぉ!」
廊下の向こうから何とも騒がしい男が走って来た。
病院職員風のその男……年の頃は白衣の優男と同年代、ボサボサの髪にギョロギョロした目しっかりと張ったエラと顎。
見るからに喧しそうな男だった。
その喧しそうな男、バタバタとヒロトとチサトの横を駆け抜けると……白衣の優男を捕まえると。
「今晩、ちくっと付き合ってくれんかのぉ?」
そのしっかりとした顎を撫でながら、何やら悪巧みの様に声を潜めている。
「また……やってるよ」
ヒロトの頭上からチサトの呆れたような声が聞こえてくる。
「あれは?」
如何にも病院の似合う男と如何にも病院の似合わない男の組み合わせを珍しそうに見つめるヒロト。
チサトの方を顧みる事もなく唖然とした感じで尋ねる。
「あなたが気絶してる間に脳の検査をしてくれた脳外科医の北方仁(きたがた ひとし)先生、通称:仁(じん)先生……と」
「……と?」
「仁先生をキャバクラに誘う事務員の坂本亮太さん……何でも狙ってるキャバ嬢がいるだってぇ」
呆れたようなではなかった。
明らかにチサトは呆れていた。
そしてその呆れっぷりはヒロトに伝染してゆく。
が……そんな事はお構い無しの亮太。
「しぇんしぇ!悪い事は言わんき!付きおうてくれんかのぉ……」
バリバリの土佐弁で泣き落としをかけている亮太。
そんな亮太に仁先生は……。
「あっ!くぅっ!」
突然の頭痛に苦しめられる様に頭を押さえ、その場をやり過ごそうとしている。
その何処かで観た様な光景に開いた口が塞がらないヒロト。
「行こ……」
「あ……あぁ」
付き合い切れないといった感じで車椅子を押し始めるチサト。
呆れ果てているヒロトも……。
病院には……まぁ面白い人間もいるもんだ。
その程度の感想を心に留め、気持ちを切り替える事にした。