ナースcalling! 17
「おいおい……びっくりするだろうが」
あまりに予想外の衝撃だったのか、ヒロトは率直な反応を示した。
普段はあまり生気が感じられない彼の、人間的な一面が僅かに垣間見れる。
「居るんなら、ちゃんと返事をする。死んでるかと思うじゃない」
当の声の主、若い女性看護師は、腰に両手を遣ってご立腹の様子。
年の頃はハルカと同じくらいかその下、身長も幾分か低いようだ。
顔立ちは一見可憐だが、怒れる表情のせいもあってか、若干キツめな印象。
茶色に染まったショートカットは、その活発そうなイメージを強めている。
覇気のある受け答えや雰囲気を見るに、ヒロトとは真逆、彼が少し苦手とするタイプのようだ。
「で、返事は?」
若い女性看護師は、怒りそのままの体勢から上半身だけを屈ませ、ヒロトと顔を突き合わせる。
ヒロトの澱んだ瞳を覗き込む、強い意志の籠もる瞳。
そのえもいわれぬ感覚に、ヒロトは思わずその視線を逸らしてしまった。
「分かったよ。でも、一応俺病人なんだから、もう少し静かにしてくれよな」
ばつが悪いヒロトは、ひとまず返事をするものの、一言嫌味を付け加えるを忘れない。
「一言多い。ま、分かれば良いけど」
近付けた顔を引っ込めた若い女性看護師は、腕を組んで不機嫌そうに鼻息をひとつ。
それに合わせるように、ヒロトも溜息をついてみせる。
若い女性看護師はそれを片目に捉え、被せるように溜息をついた。
「全く、噂通りの天の邪鬼ね。ハルカ先輩も甘やかし過ぎなのよ」
予期せぬ知った名前の登場に驚き、ヒロトは悪態をつく若い女性看護師へ視線を遣る。
「この藤巻チサトは、ハルカ先輩みたいに甘くないから。ビシビシいくんだからねっ」
そう名乗った若い女性看護師――藤巻チサトは、威嚇するように拳を握り、息巻く。
怪我人相手に何をビシビシいくのか……ヒロトは一抹の不安を覚えた。
確かに、このチサトというハルカの後輩らしい看護師、ハルカとは随分違うタイプらしい。
ヒロトは少しの後悔と共に、人付き合いの煩わしさを改めて噛み締める結果になってしまった。
「あ、それで何の用事? 見た所元気そうな感じだけど」
思い出したとばかりに本題を切り出すチサト。
先程までの荒ぶった様相はなく、人懐っこいフランクな対応だった。
ファーストコンタクトが好印象とは言えない状態で、今更言い出すのも少し憚られる気もするヒロト。
しかし、呼びつけておいて何もないじゃ、またお怒りを買ってしまうだろう。
ヒロトは渋々と要件を告げた。
「ちょっと車椅子で外回りたいんだ。手伝ってくれ」
ヒロトの要求に、チサトは少し意外そうな表情を見せる。
が、すぐに思い直したように人懐っこそうな笑顔を見せた。
「何だ、そんな事。オッケー、良いよ」
その笑顔にどう反応したら良いか分からず、ヒロトはとりあえず礼代わりに頭を垂れた。