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ナースcalling!
官能リレー小説 - ラブコメ

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ナースcalling! 15

些細な事に一々苛立ちを覚えてしまう自分に疲れながらも、無視する訳にはいかないヒロト。
生来のぶっきらぼうな人柄を前面に、ヒロトは答えた。

「別に、特に何もやってない」

「えっ? そ、そうなんですか」

 ヒロトの思わぬ解答に、ハルカは困惑の色を隠せない様子だった。
ヒロトは建設会社に就職しており、何もやっていない、というのは多少語弊があるものの、強ち間違いでもなかった。
任される訳でも、自分の意志で選ぶ訳でもない。
やらされている、そんな表現しか出来ないように、ヒロトには現状仕事という感覚はなかった。

「だ、大丈夫ですよっ。きっと秋吉さんも良い仕事が見つかりますよ!」

「はぁ?」

 強い意気込みを感じるハルカの励ましに、呆気に取られるヒロト。
温度差という言葉では言い表せない程に、2人の観点は違っていた。
素直過ぎるハルカの反応に、ヒロトは苦笑いした。

「友達が勤めてる所、紹介しますよ! 大丈夫です、私のコネがあれば……」

 ハルカは拳を握り締め、未だ熱弁をふるう。
そんな一人歩きし続けるハルカに、いつしかヒロトは可笑しさを感じていた。
同時に、こんな風になれたら自分も楽だろう……そんな考えが浮かぶ。
らしくない事を思い描く自分にも、ヒロトはまた可笑しさを感じた。

「ハハッ、どんなコネだよ。生憎、就職はしてるよ」

「えっ? も、もう! ひどいですよ、騙すなんて!」

 小さいながらも、珍しく笑って返すヒロトに、顔を真っ赤にして真っ直ぐな怒りを示すハルカ。
からかった訳ではないが、伝わらなかった意図は思わぬコミュニケーションへ結実した。

「でも、良かったです」

 程なく平静を取り戻したハルカが、微笑みを湛えながら呟く。

「ニートじゃなくて、か?」

「そうそう……って違いますよ! 元気そうでって事です!」

 ヒロトの嘲りに、頬を膨らませながら顔を背けるハルカ。
拗ねた幼子のような反応に、ヒロトはまた小さく笑った。

「もう病室に戻りますからね! ちゃんと安静にしてて下さいね!」

「はいはい……」

 ご立腹な様子のハルカは、広いストライドで勢い良く車椅子を押していく。
軽く風を切りながら、ヒロトは流れていく景色を眺めていた。
2人を包む空気は、少しばかりの温かさを帯びているように見えた。


 *

「ああ……暇だ」

 ヒロト以外誰も居ない、白い部屋。彼の口から何度呟いたか分からない言葉が漏れる。
暖かく穏やかな昼下がりには似つかわしくない、暗く沈んだトーン。
彼の心情をストレートに表すその言葉は、もはや呼吸と変わらない程に自然と口をついて出る。
気分転換を、と思い付くままにテレビを付けるも、小一時間も画面を眺めれば飽きて消す、そんな繰り返しだった。
ヒロトは、己の空虚な心を埋める術を知らない。
その空虚が何から去来するものか、今の彼には分からなかったからだ。

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