ナースcalling! 14
それにハルカは、そんな自分にとても良くしてくれている。
俺って……ガキだ。
そんな自責の念は心の何処かに引っ掛かってはいるものの、素直に“ありがとう”の言葉は出てきそうなかった。
そんな思いで中庭をゆくヒロト。
ふと前方に目をやると、数台の自販機とベンチが……。
「なぁ……コーヒーでも飲まないか?おごるぜ」
不器用なヒロトの精一杯の感謝だった。
ベンチに座ったハルカはコーヒーの缶を両手で包み……ニコニニコとヒロトに微笑みかけてくる。
ヒロトはそんなハルカの視線に……心がザワつき。
視線を逸らす様に顔を伏せていた。
と……そこに。
「はい……はい……お邪魔しすよ」
入院患者だろうか、寝間着を着た老婆が歩行器具を押しながら近づいて来た。
シワくちゃな顔を更にシワくちゃにして微笑んでいる。
「おばちゃん……はい」
サッと立ち上がり老婆に手を貸すハルカ。
「おお……お嬢ちゃん……優しいねぇ」
嬉しそうにハルカの手を握る老婆。
老婆はハルカを看護師として認識しているのか?
ヒロトは首を傾げざる終えなかった。
ハルカの手助けを得て、甘酒を買い終えた老婆は。
「逢い引きの邪魔して……悪かったねぇ……これお食べ」
歩行器具に備え着いたバックから、小さな包みを取り出すとハルカに……そしてヒロトに手渡した。
それは小さく包まれた飴玉だった。
「ありがとう!」
ニコヤかながらもハルカは視線で無言のヒロトを促す。
「ど……ども」
やや憮然と応えるヒロト。
「頑張りや……」
そんなヒロトに老婆はクチャクチャの笑顔を見せると……ガラガラと歩行器具を押して。
今、来た道を引き返していった。
「はあ……災難」
独り言の域を出ぬ呟きを漏らし、ヒロトは小さくなっていく老婆の背中を見送った。
ハルカの手前、老婆の厚意をふいにしても面倒に思い、ヒロトは無造作に飴を口に含む。
「ま、いいか」
口の中で転がす度に広がる甘さを味わい、ヒロトの顔の筋肉が少し緩んだ。
ベンチや、低木などの植物が点在する中庭の景色。
言葉にしたら何でもない、特筆すべき所など何もないが、見飽きた白い平面に比べたら、ヒロトには十分新鮮に映った。
久しぶりに感じる、舌から喉を通り抜けるコーヒーのほろ苦さや暖かさ。
それらが相俟って、ヒロトに心地良い溜め息をつかせた。ひと息、とも言えるだろう。
「ヒロトさんは、何のお仕事をしてらっしゃるんですか?」
そんな中、ヒロトにハルカからの質問が投げ掛けられる。
他愛もない、よくある質問であるが、ヒロトは急に現実に引き戻されたような気がした。