下宿少女 9
「えーと…」
人だかりの後ろからのぞき込むようにして紙を見る。
俺の名字は天野だから、あるとしたら始めの方のはずだ。
そう思い探しているとすぐに見つかった。
「1-A…か。」
「おっ、なになに!!!ゆうも1Aなの?」
「ホント、ゆうくん!?」
「あ、ああっ…」
すごい剣幕で二人が詰め寄ってくる。
“も”ってことは二人も同じなのか。
確認してみるとたしかにそのようだった。
「よし、じゃあ行くか。」
「うん。」
「オーケー!!!」
1年の教室は玄関からそう遠くない位置にあるため、目的の教室にはすぐに到着した。
扉をスライドさせ中に入る。
ガヤガヤガヤ…
すでに教室内に入っていた生徒たちは友達同士集まって話しているようだ。
前にも言ったが、四季ヶ峰はエスカレーター式なので途中入学者はそれほど多くない。
すでに仲のいいグループというものが出来上がっているようだった。
「おっ!!!千夏と小春も同じクラスか。」
「ホントだ〜」
二人もその例に漏れず、教室に入った途端に数人の女子たちに囲まれてしまった。
二人は俺の方を心配そうに見てくるが、目で気にするなと伝え自分の席へ。
9時から在校生の始業式があり、その後から入学式という日程なので今は自由時間だ。
席についてしばらくすると、隣に座っていた男子が声をかけてきた。
赤い髪をしていかにも派手そうだ。
しかし、身長はあまりないな…165くらいか?
「よう!!!もしかして、アンタも途中入学か?」
「ああ。そうだよ。アンタもってことは君も?」
「そのとーり!!!いやぁ、すでにグループができてるなんて新参者には優しくないねぇ。」
「たしかにそうかもな。」
「俺の名前は高橋橙矢(たかはし とうや)。気軽にトーヤと呼んでくれ!!!」
マンガとかアニメならビシッと効果音がつくほど勢いよく親指で自らを指さすトーヤ。
このハイテンションは千夏と似たところがあるな。
まぁ、名乗られたからには名乗り返さねば。
「俺の名前は天野勇。好きに呼んでくれ。」
「ユウか。よろしくな!!!」
そう言ってトーヤは手を差し出してくる。
特に断る理由もないので俺は軽く握り返した。
「それにしても、なんで途中入学なんだ?オマエもなんか部活とかやってたの?」
「いや、俺は一般公募で普通にテストを受けて入学したよ。トーヤは違うのか?」
「おう!!!俺は中学時代に陸上をやってたからスポーツ推薦でな。全国にも行ったことがあるから、その筋ではそれなりに有名だぜ!!!」
そうなのか…
たしかに、顔で判断するのはよくないが運動は得意そうだ。
性格も明るいし、これから仲良くやっていけそうだな。
ガラ…
トーヤと話しているとスーツ姿の若い女性が入ってきた。
おそらくは教師だろう。
クラスのみんなはその姿を見て席につき始める。
「んじゃ、また後でな〜」
「ああ。」
そう言ってトーヤは会話を打ち切る。
さすがに教師の前で話し続けて初日から目を付けられたくないしな。
「みなさんおはようございます。私の名前は井上啓子。よろしくね。」
井上先生か、真面目そうな人だな。
このクラスに来たということは担任になるということだろうか。
「それでは出席を取ります…って、あら?」
井上先生が不思議そうな声を漏らす。
どうしたのだろう…
先生の視線を辿っていくと、トーヤの後ろの席、つまり俺の左斜め後ろが空席になっていた。
初日から遅刻か?
「すいませんっ!!!遅れましたっ!!!」
いきなり一人の男子生徒が走り込んできた。
茶髪に緩やかなパーマのかかった爽やかな顔をしている。
随分、慌てていたのか息は乱れているしネクタイも曲がっている。
「中田くん…であってるかな?どうしたの?」
「いや、まあいろいろありまして…」
井上先生は怪訝そうな顔をしていたが、クラスに対する連絡事項を優先したようだ。
中田くんとやらが席につくのを待って話し始めた。
「では、この後のことを連絡します。
今、体育館では先輩たちが始業式を行っています。みんなは今から10分後までにトイレなどを済ませて廊下に並んで下さい。
入学式が終わったらホームルームをして今日は解散です。いいですか?」
はーい
クラスのみんなからの返事が先生に返される。
それに満足したように先生は笑顔を見せてその場は解散となった。