下宿少女 36
「………冷たい。」
「そりゃ、川だからなー」
少女はチャプチャプと、足元の水を蹴り上げる。
ただ川の中に入っただけなのに物珍しそうな様子の少女を、少年は不思議そうに見つめた。
「気を付けろよー
滑りやすいからな。」
「………言われなくても分かってる。」
「だったらいいけど………って、どわぁぁぁ!!?」
ザバァァァ…
注意した途端に、少年は足を滑らせ派手に転ぶ。
一瞬で全身がずぶ濡れになった。
「うへぇ…びしょびしょ………」
「………自分が注意したくせに……………ふふっ」
濡れた服を気にする少年の姿が面白かったのか、少女の顔に笑みが浮かぶ。
それは年相応の可愛らしい笑顔だった。
「くそ〜…とりゃ!!!」
「きゃ!?…いきなり水をかけるなんて、ひどい。」
「ふふん、こういうのは先に仕掛けたほうが勝ちなのだよ。」
「…何それ、だったら………えいっ!!!」
「わわっ!!?」
それからは特に意味もない水の掛け合いが始まる。
しかし、少年も少女も楽しそうであった。
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しばらくして、ようやく満足した二人は川岸に並んで座っていた。
少年の服が全身濡れているのに対し、少女の服は一部を除いて、ほとんど濡れていなかった。
「………勝ち。」
「何言ってんだ、風邪ひかれても困るから手加減したんだよ。」
「………負け惜しみ。」
「なんだと〜!!!」
言い合う二人の顔には笑顔が浮かんでいる。
この短時間にすっかりと打ち解けたようだった。
「そろそろお前、帰った方がいいんじゃないか?」
「………ん。」
「もうすぐ暗くなっちまうし、親も心配してるだろ。」
「………うん。」
それでも少女は動こうとしない。
少年の方をチラチラと見ていた。
「俺ももう帰らなきゃ。」
そういって少年は立ち上がる。
「あ………」
少女は名残惜しそうに少年を見つめた。
少年はそんな少女には気づかずに帰ろうと背を向ける。
「じゃあな。」
「あ…あの………」
「ん?どうした?」
少女は下を向き、寂しそうな顔をしている。
少年は黙って少女の言葉を待っていた。
「そろそろお前、帰った方がいいんじゃないか?」
「………ん。」
「もうすぐ暗くなっちまうし、親も心配してるだろ。」
「………うん。」
それでも少女は動こうとしない。
少年の方をチラチラと見ていた。
「俺ももう帰らなきゃ。」
そういって少年は立ち上がる。
「あ………」
少女は名残惜しそうに少年を見つめた。
少年はそんな少女には気づかずに帰ろうと背を向ける。
「じゃあな。」
「あ…あの………」
「ん?どうした?」
少女は下を向き、寂しそうな顔をしている。
少年は黙って少女の言葉を待っていた。
「ま、また………遊んでくれる?」
たっぷりと時間をかけて、ようやくその言葉を口にする。
少年は何の躊躇いもなく答えた。
「ああ、いいぜ。だったら明日も今日と同じ時間にここにいろよ。」
「…うん!!!」
「やべ、早く帰らなきゃ…また明日な。」
「…また明日。」
少女は少年が去っていくのを手を振りながら見つめる。
少年が見えなくなるまで少女はその場を離れなかった。