下宿少女 35
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「暇だぁ〜…」
周囲には誰もいない中、少年はポツリと呟いた。
彼と共にやっていた保護者や幼なじみは現在、夕食の準備やらテントの設置やらで忙しく、少年は手持ち無沙汰だった。
本来ならば親の手伝いをすべきだろうが幼い彼は、かえって邪魔になるだろうということで、そこら辺で遊んでくるように言われた。
「くそ…なんで小春はよくて俺は駄目なんだ?」
彼の幼なじみである少女は料理の練習という名目で、彼と彼女の母親たちと共に夕食の支度をしている真っ最中である。
少年はブツブツと文句を言いながら、川の側を歩いていた。
「せめて、誰か話し相手でも居たらなぁ…………ん?」
ふと、少年の歩みが止まる。
今までは川の側にも木々が生い茂っていたが、急に開けた場所に出たのである。
しかし、少年にとってそんなことはどうでもよかった。
少年の視線の先には、山の中には場違いな、フリルが多くついたワンピース姿の少女がいた。
「………」
少女は少年の存在に気が付いていないのか、黙って川の上流の方を見ている。
心なしか、つまらなそうな表情をした少女のことが気になって、少年は声をかけていた。
「おい、どうかしたのか?何してるんだ?」
「………?」
そこで初めて、少年の存在を認識した少女は振り向き、少年を見つめる。
笑顔のない、つまらなそうな表情だと少年は感じた。
「こんなところに一人でいると危ないぞ?親とかいないのか?」
「………いない。」
長い沈黙の後、それだけを答える少女。
人によっては無礼な態度に写るかもしれないが、少年は気にせずに続けた。
「どこにいるんだ?」
「………お屋敷の中。お客さんとばっかり話してる。」
「側にいなくていいのか?」
「………いい。どうせ気が付かない。」
徐々に喋る言葉が長くなってくる。
しかし、表情だけは相変わらずだった。
「ふーん…」
「………あなたは?どこからきたの?」
ここで初めて、少女から少年に対して疑問の声が上がる。
本気で気になっている訳ではなく、話題の一つとして問いかけただけだったが、少年は気付かずに答える。
「俺?俺は家族たちとキャンプに来たんだ。あっちの方にテントがある。」
そう言って、少年は下流の方を指さす。
少女は興味が無さそうな目でそちらの方を眺めた。
「………そう。」
「あ、そうだお前、暇なら一緒に遊ばないか?」
「………一緒に?」
少年の言葉が以外だったのか、少女の表情が僅かだが初めて変わる。
少年はさらに続けた。
「そう、川遊びとかさ。」
「………川は危ないから入るなってお父さんが……………」
「いいから、来いよ。」
「きゃ!?」
少年は少女の手を取り、川の中へと引っ張り込む。
少女は小さな悲鳴を上げるも、特に抵抗することなく少年に続いた。