下宿少女 15
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町のいたるところを歩き回り、最後にたどり着いたのは家の近所にある少し大きめの公園だった。
ここにたどり着くまで、秋穂は明らかに何かを探しているようだったが、それが何かは教えてくれなかった。
「…おかしいな、いつもならとっくに見つかってるのに…」
秋穂はそれを見つけられないことを焦っているようだった。
その表情は暗く曇り、何かを心配しているようだった。
「なあ、そろそろ教えてくれないか?
いったい何を探しているんだ?」
「………」
「秋穂!!!」
「…どうしてそこまで気にかけるんですか?あなたには関係ないはずでは?」
秋穂は疑うような目でこちらを見てくる。
なぜ自分のことをここまで気にかけるのかが理解できないという目だ。
「それは…」
『おらっ!!!くらえ!!!』
その時、遠くの方から物騒な声が響いてくる。
声がした方を見ると、中学生くらいの他校の生徒が小さな動物用ゲージのようなものに向かってエアガンを発砲していた。
嫌な予感がするな…
それを見た秋穂は全力で中学生の集団のほうに走っていった。
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パン!!!
「ニャアっ!!!」
「いえ〜ヒット!!!」
「すげ〜」
「次、俺ね!!!」
そこに広がっている光景は惨いものだった。
男子生徒たちは3人で閉じこめた黒い子猫を的にしてエアガンを撃っていた。
子猫は首輪をしていなさそうだったから、おそらくは野良猫を捕まえたのだろう。
早く止めないと取り返しの付かないことになる。
「止めなさい!!!」
俺より早く走り出していた秋穂は子猫と男子生徒たちの間に割って入る。
男子生徒たちは楽しみの邪魔をされたとばかりに秋穂に食ってかかった。
「はぁ?何だよお前。」
「そこどけよ〜」
「せっかくの的が意味ないだろ〜」
「…この子は的なんかじゃありません。目障りなんですよ!!!早くどこかに行きなさい!!!」
「はぁ?意味わかんね。女だからって手を出されないって思ってんのか?オラァァァ!!!」
子猫をかばったことにより、暴力の矛先が秋穂に向けられる。
男子生徒は秋穂に直接殴りかかろうと距離を詰めていく。
男子生徒の拳が握られ、秋穂の顔めがけて放たれた。
「っ!!!」
目を閉じて硬直する秋穂。
しかし、その体に拳が届くことは絶対にない。
「だ、大丈夫か?秋穂。」
「…あ………」
俺は秋穂と男子生徒の間に割り込むことで、男子生徒の拳から秋穂を守った。
いきなりのことで受け止めるなんてことは出来なかったから、顔にモロで食らってしまったが…
何、動けるなら問題はない。
「な、何だよお前!!!」
「俺か?この子の家族だ。」
「はぁ!?」
「俺の家族には絶対に手出しさせない。早く失せろ。」
「カッコつけてんじゃねぇよ!!!」
俺が急に出てきたことが気に入らなかったのか、男子生徒は再び殴りかかろうとする。
しかし…
「いいのか?今日お前たちがやってたことは立派な犯罪だ。顔は3人とも覚えたし、制服から、どこの学校かもすぐに分かる。」
「っ!!!」
俺は普段しないような冷たい表情を見せ、男子生徒たちを脅しにかかる。
後、一歩ってとこか…
「お前らが小動物や女の子に平気で暴力を振るうようなクソ野郎どもって知ったら、親は、教師は、同級生たちはどんな反応を示すのかな?」
「う…」
「もう一度だけ言う。失せろ!!!」
いままで落ち着いた口調で話していたが、最後だけ怒りのすべてを言葉に乗せる。
男子生徒たちは何も言わずにそそくさと去っていった。
「ふい〜…」
あ〜疲れた…
殴られたところが地味に痛かったしな…
「…大丈夫ですか?」
秋穂は座り込んだ俺の側にしゃがんで心配そうに俺を見ている。
こいつのこんな顔は初めてだな。
「ああ、大丈夫だよ。それより、もしかしてそいつが探してた…」
「…はい。おいで…怖かったね…ごめんね。」
秋穂が子猫を外に出してやっている。
幸いにもすぐに止められたようで目立った傷は付いていなかった。
「にゃー」
「可愛いな、野良猫か?」
「…はい。元々は親子だったんですけど、親猫が私の前で車にはねられちゃって…」
「…そうか。」
その後、秋穂が餌をやって育てていたということだろう。
下手に人間になれていたばっかりにアイツらに捕まってしまったようだ。
秋穂は鞄から餌を取り出して子猫に与え始めた。
「…あんまりこういうことは良くないって分かってはいるんですけど、どうしてもほっとけなくて。」
子猫は秋穂に本当に懐いているようだった。
餌を食べ終わるとスリスリと秋穂の足にまとわりつく。
「本当に怪我してないか、病院で見てもらわないとな。
あとは予防注射もしてもらわないといけないし…ああ、トイレとか小屋とかもいるのかな…?」
「…え?」
「そいつが家で生活するのにいるものだよ。いろいろ必要だろ?」
秋穂は信じられないような目で俺を見ている。
今日はこいつのいろんな顔が見れておもしろいな。
それだけで付いてきた甲斐があると言うものだ。
「…いいんですか?」
「いいも何も、しょうがないだろ。それに、このままじゃ苦情がくるぞ?野良猫に餌をやらないでくださいってな。」
「…でも………」
「母さんたちには俺から言ってやるから心配するな。それとも、他に何かあるのか?もしかして、猫嫌いなやつが家にいるとか?」
「…いえ、そんなことはないはずですけど。」
「んじゃ決定〜」
金は十分振り込みがあるし、一匹くらいなら何とかなるだろ。
「…ありがとうございます、ゆうさん。」
「お…おう!!!」
初めて秋穂に名前で呼ばれた…