先祖がえり 9
「・・・お姉ちゃん・・・こっちも、良いよ・・・?」
と言って尻尾を差しだす狐太郎。その尻尾も素晴らしい毛並みで金色の色が輝いて見える。
「・・・ごくっ・・・良いのね?コタちゃん・・・」
興奮のあまり生唾を飲み込む留美。元より溺愛していた少年が狐の耳と尻尾をつけてもっと可愛らしくなり、しかもそれを触らせてくれるときたら・・・彼女も興奮が抑えられない。
「う、うん・・・どうぞ。」
「い、いくわよ・・・」
フワッ・・・・サワサワッ・・・・
「は、はぅぅ〜〜ん!」
さっきの耳よりも激しい反応を示す狐太郎。どうやら尻尾の方が感じやすいようだ。
「ああ〜ん・・・コタちゃんの尻尾・・・こっちもフサフサだわ・・・」
と、その時
「あ、あの〜・・・狐太郎様」
今まで黙って二人を見ていた加奈が話しかけた。
「ふぅん!・・・ふ、ふぇぇ?どうしたの?加奈・・・」
赤く染めた頬のまま首をかしげる狐太郎。そのあまりの可愛さに加奈は若干やられつつも同じく赤い顔で返す。
「はぅ!(狐太郎様・・・可愛いです・・・) あの〜・・・わ、私にも触らせて頂けないでしょうか?」
そう。加奈も狐太郎の耳と尻尾を触りたくて触りたくて仕方なかったのである。しかしそれに返したのは狐太郎ではなかった。
「ダメよ、加奈ちゃん。コタちゃんは『私に』触って良いって言ったんだから・・・ねぇ?コタちゃん?」
「そ、そんなぁ〜・・・」
留美としては自分だけ触ることが許されているという状況が嬉しいのだろうが、加奈としても狐太郎の耳と尻尾に触りたい。二人がにらみ合っているなか
「・・・いじわるしないでよ・・・お姉ちゃん・・・」
「「こ、コタちゃん?!(狐太郎様?!)」」
二人のにらみ合いを止めたのは狐太郎だった。
「お姉ちゃん・・・いじわるなお姉ちゃんは・・・僕、嫌いだよ?」
「!!!!!!! あ、ああ・・・ごめんなさい!!もういじわるなんてしないから!!だから嫌いだなんて言わないで!コタちゃん!!」
狐太郎から出た「嫌い」という言葉に慌てる留美。狐太郎に嫌われることを何としても回避したい彼女は二度と意地悪をしないことを宣言する。
「・・・うん・・・じゃあ、加奈。加奈だったら僕・・・良いよ。ど、どうぞ・・・」
「あ、ありがとうございます!それでは・・・」
震える手でまずは耳に手を伸ばす加奈。そして・・・
サワッ・・・
「ひっ!」
「ああ・・・なんて良い肌触りなんでしょう・・・」
続けてもう片方の手で尻尾も触りだす。
サワサワ・・・ワシャ、クシャクシャ・・・
「ふぅ!ひっ、ああっ!そんな、たくさん!」
「ああ、ああ・・・素敵です・・・可愛らしいでしゅぅ・・・狐太郎しゃまぁ・・・」
自分も狐太郎に認めてもらえ、さらに耳や尻尾まで触らせてもらえたことに恍惚の表情の加奈。
しかし留美としてはあまり面白くない。
「・・・さあ、コタちゃん。悪いけど、もう時間は無いわ・・・」
と言ってやめるよう言う留美。
「う、うん・・・わかったよ。 加奈・・・」
「あんっ! も、もう少し・・・」
「ダメよ、加奈ちゃん。時間も無いんだし。」
「は、はぃぃ・・・」
そういって一行は『家』に向かうこととなった・・・
「うわー!ここもすごいね!」
「こらこら、コタちゃん。走り回るとこけちゃうわよ? ふふふっ♪」
「可愛らしいですぅ・・・狐太郎様ぁ・・・♪」
無邪気な狐太郎の姿を見て微笑む二人。
「さあ、コタちゃん。寝室はこっちよ?おいで」
「うん!」
二人について行く狐太郎。
屋敷は二階建てであったがその規模は信じられないほど大きく、まさに「屋敷」と呼ぶに相応しかった。
部屋の数もゆうに30は越しているだろう。使い切れないほどである。
雰囲気は中世の洋館のようであり、数々の調度品も置かれていた。
狐太郎はこの屋敷を迷うことなく移動できるか不安になってきた。
「ねぇ・・・お姉ちゃん・・・僕、迷わないかな・・・」
「ふふっ・・・大丈夫よ。コタちゃんは私か加奈ちゃんが抱いて移動するからね。」
なるほど。それなら迷うことは無い。
そうこうしているうちに寝室についた一行。
扉を開けるとそこには大きなベットや机、クローゼットなどが置かれていたが、部屋の大きさが規格外のせいかまだまだスペースがある。
「さあ、着いたわよ、コタちゃん。」
「うん!ありがとう、お姉ちゃん。」
と言ってさっそくベットに向かう狐太郎。
「わぁ、大きなベットだなぁ・・・」
しかし、その語尾はだんだんと力の弱いものとなっていく。どうやらベットを目の前にして眠くなってきたらしい。
まだ昼だが、午前中にいろいろあって疲れたのだろう。狐太郎はそのまま昼寝へと移ろうとしていた。
「ふにゅぅ・・・お姉ちゃぁ〜ん・・・来てぇ・・・」
「うん?どうしたの?」
ベットの上に留美を呼ぶ狐太郎。そのまま留美もベットに上がり狐太郎の横に寝転ぶ。
「ふふふっ・・・お姉ちゃぁ〜ん♪」
「!! あらあら・・・コタちゃんったら・・・」
幸せそうな顔でいきなり抱きついた狐太郎に驚いた留美。しかし狐太郎がそのまま眠ってしまったのを見て母性溢れる頬笑みで狐太郎を見つめる。
「・・・加奈ちゃん。」
「はい、留美様。」
「悪いけど、いま私動けないから、このまま布団をかけてくれる?」
「はい、かしこまりました。」
「ありがとう。あなたは・・・そうね。コタちゃんの寝顔、見てていいわ。」
「!!! ほ、本当にございますか?!」
「ええ・・・そのかわり、コタちゃんが目覚めるまで絶対にコタちゃんを起こすような真似はやめてね?」