先祖がえり 39
美咲の方は留美が戻っていったことに満足した様子で熱心に狐太郎の相手をしていた。
狐太郎の方は状況をよく理解していない様子で、しかしながら自分に向けられた純粋な愛情を笑顔で受けていた。
「・・・加奈ちゃん、加奈ちゃん。」
「る、留美様・・・これは・・・」
「えっと・・・どうやらね・・・」
昨日のこと、そして今のおそらくの状況を説明する留美。
「なるほど・・・わかりました。なら私に考えがあります。」
「・・・考え?」
「ええ。ここは私に。」
事情を聞いた加奈は単身狐太郎を愛する美咲の元へと向かった。
すると案の定美咲は「グルルル〜〜〜・・・」と威嚇をしている。狐太郎を奪われると思っているのだろう。
しかし加奈はその場で狐太郎に手を伸ばすこと無く
「・・・美咲さん。何をしているのですか?」
あの、美咲が恐れる真顔で淡々と語りだした。
その顔を見た美咲は
「!!!!」
ひどく驚いた顔になり、狐太郎を抱いたまま怯えて身を縮こませる。
しかし加奈はその様子をみて表情を変えることなく
「さあ、ご主人様を離しなさい?」
そう言って美咲に一歩近づく。
それにより美咲は加奈のことを「絶対に逆らってはいけない人」として認識した。
そして・・・
「・・・(ストンっ)」
抱き上げていた狐太郎をゆっくり降ろす。
それを見た加奈は
「さぁ、ご主人様。こちらへ・・・」
そう促す。狐太郎も加奈の初めて見る顔に戸惑いながらも
「う、うん・・・」
そう言って留美の方へ向かった。
「ああ・・・コタちゃん・・・」
心配していた留美は狐太郎を力強く抱擁する。
それを見届けた加奈は
「・・・留美様。私は美咲さんにお話しがあるので、一旦御退室願いますでしょうか?そうですね・・・もし今日も学園の方に向かわれるのであれば狐太郎様のお着替えを手伝って頂けると嬉しいのですが・・・」
その言葉に加奈の意図が分かったのだろう。留美は
「ええ。分かったわ。それじゃあコタちゃん。行きましょう?」
そういって狐太郎を連れて部屋を出ていった。
「さて・・・いけないワンちゃんですね・・・」
二人が残された食堂で、美咲と加奈は対峙していた。
勿論加奈優勢である。美咲は完全に加奈に怯えきっている。
「まずは・・・」
そう言うと加奈にしては珍しく大きな声で
「いつまでそうしているのですか?!美咲さん!!」
美咲を叱りつける。すると
「!!!! あ、あれ?わたしは・・・」
正気に戻った美咲。しかし
「!!! か、加奈様?!」
目の前には尋常じゃないほど怒っている加奈の姿。いままで叱られることはあってもここまで怒らせたことは無い美咲は、初めて見る加奈の姿に正気に戻った今も怯えていた。
「・・・美咲さん。どういうことですか?」
「ひぃ!!と、申されますとぉ・・・?」
「・・・あなたは昨日、ご主人様とエッチをした時にあまりの快感に虚ろになってしまい、ご主人様にある暗示をかけられたのです。」
「あ、暗示・・・でございますか・・・?」
美咲は出来るだけ加奈を刺激しないように遜った返事をする。
「ええ・・・それは『ご主人様に愛撫して頂くととても気持ちよくなる』もの、『ご主人様のお傍にずっと居たくなる』もの、そして・・・」
「そ、そして・・・?」
「これはご主人様がかけたものではないのですが、あなたのあの時の姿を留美様が『ワンちゃんみたい』と評したことがあなたの暗示になっているようです・・・」
「わ、ワンちゃん・・・ですか?」
「ええ。元はご主人様がきっと寂しくてかけられたものなのでしょうが・・・それゆえにご主人様に文句も言えないのですが・・・まあ元よりメイドである私たちがご主人様に文句を言うなど恐れ多くて出来たものではありませんね。」
加奈は自嘲気味に笑う。
「そ、それで・・・まさか!」
「はい。そのまさかです。あなたはご主人様の愛撫により母乳を出しながらまたも快感に支配され、その際その暗示が発動して、ご主人様のことを抱いたまま離さないはおろか、私や留美様にも威嚇をしていました。そう、まるで『ワンちゃん』のように・・・」
「あ、ああ・・・・・そんな・・・」
自分のしてしまったことを知らされ、目の前が真っ黒になっていく美咲。
「幸い、ご主人様はあなたに愛され嬉しそうでした。まああなたもご主人様を愛するあまりあのようになったのでしょうが・・・」
「で、でもっ!」
「ええ。それでもあなたが私のみならず留美様にもはむかったことに変わりはありません。」
「も、申し訳ございません!!わ、私・・・」
「無自覚の中、ですか?それで許される問題では無いのですよ?」
加奈はあくまでも厳しく美咲にあたる。
「そ、そんな・・・」
いよいよもって自分の運命が危ぶまれた美咲は絶望の色を浮かべる。
「そこで・・・あなたには罰を受けて頂きます。」
「!!! そ、それは・・・」
もうダメか・・・そう思った時