先祖がえり 4
「じゃあ・・・どうしておじいちゃんが今の木崎家のリーダーなの?」
言い伝えによると真の者が木崎家を率いるはずである。しかし自分の祖父はその真の者ではないという。一体どういうことなのか。
「それは・・・仕方ないのじゃ。真の者が現れないと言っても木崎家は誰かが仕切らなければならぬ。今はその役をわしがやっているだけじゃ・・・」
理由は実に単純だった。なるほど、確かにリーダーは必要だ。そこで自分の祖父は真の者ではないにしろ、家主の役をかってでているようである。
「そうなんだ・・・でも、僕がその真の者なの?」
「それは分からん・・・でも、全ては明日分かる。狐太郎は明日が誕生日であったな?」
「・・・うん。」
確かにそうだが、もしかしたら明日、自分の身に何かが起こるかもしれないと遠回しに告げられた狐太郎は不安でいっぱいだ。
「なぁに、心配することは無い。狐太郎にはわしも、そしてお前の大好きな留美もついておる。何も心配することは無い・・・」
「そうよ、コタちゃん・・・お姉ちゃんが守ってあげるから・・・ね?」
慈愛に満ちた目で狐太郎を見降ろす留美。それでやっと安心したのか
「うん・・・わかった。」
と納得する狐太郎。しかしまだ納得していないことがあった。
「それで・・・もし僕がその真の者だった時、僕がこの『木崎コンツェルン』をまとめなきゃいけないの?・・・そんなの無理だよ・・・・」
新たに生まれた問題に不安で押しつぶされそうになる狐太郎。留美を抱きしめる手にも自然と力がこもる。
「ああ、それは安心せぇ。何も明日すぐに代表になれと言っておるのではない。もしもお前が真の者ならだんだんと代表になるための力をつけて行くのじゃ。それまではわしが代表を務めるし、お前には留美も、そこに居る加奈もついておる・・・」
部屋の隅に立っていた加奈は自らの名前が呼ばれ、優しげな瞳で狐太郎を見つめる。
留美も狐太郎を抱きしめ直すことでその意思を表し、頭のみならず頬まで優しく撫でる。
「・・・うん。」
ゆっくりとやっていけばいい。そのような言い回しに不安ながらも頭を縦に振る狐太郎。
「うむ・・・ならば、少し早いが狐太郎は先におやすみ。部屋の案内は加奈に任せよう。」
「はい、かしこまりました、源之助様。 さぁ、狐太郎様、こちらです。」
加奈に促され、ついて行くことになった狐太郎。しかしまだ心のどこかで不安が残っているのか、留美に抱きついたまま動こうとしない。
仕方ないのである。狐太郎にとって加奈は全然知らない人。今までいじめられて来た狐太郎は、知らない人と共に知らない部屋に案内させられることに不安が隠せないのである。
そのことを悟ったのか
「・・・加奈ちゃん、こっちへいらっしゃい。」
留美が加奈を呼ぶ。
無言でやってきた加奈だが、留美の瞳をみて言いたいことを理解したのか、その場でしゃがみ
「さぁ・・・狐太郎様。こちらへ・・・」
と言って手を差し伸べる。
「・・・・」
不安が隠しきれない狐太郎は、少しの涙を浮かべながら留美を見上げる。
その顔のあまりの可愛らしさに留美は悶えながらも
「大丈夫よコタちゃん・・・さぁ・・・」
と言って促す。
促された狐太郎はふるふると震えながらも
(・・・・ちょん)
差し出された加奈の手にゆっくりと触れる。
それでも加奈は彼の腕をいきなり掴むこと無く待ち続ける。どうやら彼の不安をぬぐい去ろうとしているのであろう。
その様子にどうやら加奈は自分をどうにかすることはないと理解した狐太郎はゆっくりと手を掴み、握る。
「ふふっ。じゃあ行きましょうか・・・」
自分の手を握ってくれたこと。そして何より自分への警戒を解いてくれたことに喜びを感じた加奈は優しい微笑を浮かべながら狐太郎と手を繋ぎながら部屋を出ていく。
「加奈ちゃん。コタちゃんをお願いね。」
「はい。わかっております。」
留美は狐太郎のことが心配ながらも加奈ならば安心だと思い、彼女に狐太郎を託す。
その日から狐太郎の生活はガラリと変わることとなる・・・
「・・・それで、お爺様?」
「ん?なんじゃ?」
狐太郎と加奈が居なくなった部屋で二人は顔を向き合わせる。
「コタちゃんがもしも・・・もしも真の者に先祖がえりした場合・・・」
「ああ。『そう』なるだろうな。」
「やはりそうですか・・・あの子が心配しなければいいのですが・・・」
「ん?お前は狐太郎のことをずっと守るのではなかったか?」
「はい。それはもちろんそのつもりです。」
「ならお前がその心配をぬぐい去ればいいだけの話ではないのか?」
「・・・そうですね。」
と言って留美は立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「どこへ行くんじゃ?」
「コタちゃんのところです。明日の朝、あの子が驚かないようにしないと・・・」
「そうか・・・狐太郎のこと、頼んだぞ。」
「ええ。」
と言って二人の会話は終わった。
加奈によって自分が寝る部屋に連れてこられた狐太郎は驚きを隠せずに居た。
(うわぁ・・・豪華だなぁ・・・)
そう、これから自分が寝るのであろうその部屋は今まで自分が住んでいた部屋とは比べ物にならないほど豪華であった。
様々な調度品に囲まれながら、これまた大きなベットに案内される狐太郎。
「それでは、私はこれで・・・」
案内が終わったのであろう。加奈は部屋を出て行こうとする。
「・・・あの・・・」
その時狐太郎は小さな小さな声をあげた。
「?? どうされました?」
しかしそれに気づいた加奈は歩みを止め、狐太郎の方に向き直る。
「・・・・・」
喋ろうとしない狐太郎。しかし彼は無言で加奈の元へ行き