先祖がえり 30
留美も加奈のその行動の意味を理解したのか
「大丈夫よ、コタちゃん・・・さぁ・・・」
と狐太郎を安心させながら美咲の方へ向かせる。
相変わらず不安そうな狐太郎。初めて加奈の手に触れた時と同じ反応を示している。
その耳は折りたたまれ、尻尾も丸まっている。
しかし、ゆっくりと近づいて行き
―――――――ちょん
と差し出された美咲の指先に恐る恐る触れる。
美咲は先ほどの加奈の言葉を思い出し、動かないでじっとしている。
それに安心したのか、狐太郎は再度ゆっくりと手を伸ばし
―――――――きゅっ
と手を握った。
それでも美咲は動かない。狐太郎の耳や尻尾がまだ不安に震えていたからだ。
狐太郎の方はしばらく美咲の手をさすっていたが、ついに自分に危害を加えることは無いと理解したのかその耳や尻尾を元に戻した。
その様子を見届けた美咲は
「狐太郎様・・・」
とつぶやきながら、ゆっくりと狐太郎と握手を交わした。
しかし、その後の狐太郎の行動は予想してなかったものであった。
狐太郎は握手を終えると留美に抱っこしてもらっているのをやめてもらい、そのまま美咲に近づき
―――――――ひしっ
と美咲の腰に抱きついた。
「!!! こ、狐太郎様?!」
慌てふためく美咲。しかし狐太郎の方は
「・・・スンスン・・・」
と喋ること無く何かをしている。
その後狐太郎は美咲に抱きついたまま顔をあげると
「・・・覚えたよ。美咲の匂い。」
と言って満面の笑みを見せた。どうやら人狐である狐太郎は嗅覚が優れているようである。
しかしその笑顔にやられた美咲は
「ああ!!狐太郎様、狐太郎様ぁ!!」
と、彼に頬ずりをしている。
「うきゃきゃ!くすぐったいよぉ!!」
しかし、今までの不安などどこかに行ってしまった様子で美咲の頬ずりを受け入れる狐太郎。
もう完全に警戒はしていないようである。
その様子を見ていた留美は
「さぁ、コタちゃん。ご飯にしましょう?」
と言って美咲から狐太郎を受け取り、彼を膝の上にのせて自分も椅子に座る。
「じゃあ、いただきましょうか?」
留美の掛け声と共にこの日の夕食が始まった・・・
(ああ・・・狐太郎様が私の作った料理を美味しそうに食べていらっしゃる・・・よかった、お料理を練習していて・・・)
美咲は自分の手料理を愛する人に食べてもらう喜びを噛みしめていた。
(でも、やっぱり・・・)
「お姉ちゃん、僕いなり寿司が欲しいなぁ」
そういって留美を見上げる狐太郎。留美も留美で
「いいわよ、コタちゃん。はい、どうぞ。」
と言って狐太郎にいなり寿司を差しだす。
「ありがとう。・・・パクっ、モギュモギュ・・・」
狐太郎も狐太郎で美味しそうにいなり寿司を食べている。
それを見ていた加奈が
「どうですか?ご主人様・・・?」
自分の作ったいなり寿司の出来栄えを聞いているのであろう。
「うん!おいひぃよ?」
口の中いっぱいにいなり寿司を頬張りながら返事をする狐太郎。
「ああ、良かったですぅ・・・」
その返事を聞いて安心した様子の加奈。
(やっぱり・・・加奈様のいなり寿司には敵わないか・・・よし。)
何かを決意した美咲は加奈の近くに行き
「加奈様、ちょっとよろしいですか?」
「なんです?美咲さん。」
「あの・・・私に『いなり寿司』の作り方を教えてください!」
そういって頭を下げる美咲。その様子に留美は気づいて「あらあら・・・ふふふっ」と微笑んでいるが、狐太郎はいなり寿司に夢中である。
「・・・いなり寿司の作り方・・・ですか?」
「はい!私も、狐太郎様にいなり寿司を作って差し上げたいんです・・・お願いします!」
「そうですか・・・」
そういって悩んだそぶりをする加奈。
しかし
「・・・なら・・・ご主人様に召し上がっていただくなら、しっかりと教えなければいけませんね・・・」
「!!! と、言うことは」
「ええ。いいでしょう。教えますわ。」
と言って微笑む加奈。美咲の方も
「あ、ありがとうございます!!」
とまたも頭を下げている。
こうして屋敷に新たな住人が増えた初めての夕食は行われていった・・・
風呂に入ることになった狐太郎たち。