先祖がえり 26
少し大袈裟なくらいに首を縦に振る美咲。
留美はその様子を見て
「・・・加奈ちゃん。」
「はい、なんでしょうか?留美様?」
加奈を呼ぶ留美。加奈は寝ている狐太郎を起こさないよう小声で返事をするが、その顔は狐太郎を抱きしめているせいか優しそうに緩んでいる。
「今日から美咲ちゃんを使用人として屋敷に住んでもらうことにするわ。そのように手筈してくれるかしら?」
「はい、かしこまりました。」
「そうね・・・美咲ちゃんには早速屋敷に来てもらいましょうか。」
「は、はい!!」
いよいよ狐太郎の住む屋敷に行くことが出来る。彼女は喜びに心を埋め尽くされていた。
「・・・さあ、着いたわ。美咲ちゃん、ちょっと待ってて。あと加奈ちゃん、いらっしゃい。」
「はい。」
「なんでございましょうか?留美様。」
「なにって、通行証の発行よ。」
「あ、はい、かしこまりました。」
留美の意図が分かったのか狐太郎を抱いたまま留美について行く加奈。
「じゃあ、美咲ちゃん、ちょっと待ってて。」
そういって二人は先に行ってしまった。
しばらくした後・・・
「お待たせ。はい、これが美咲ちゃんの通行証よ。」
戻ってきた留美が通行証と書かれたカードを美咲に手渡す。そこには何かしらのIDとどこで撮ったのか美咲の顔写真も載っていた。
「あの・・・通行証って・・・?」
「そのままの意味よ。これさえあれば自由に屋敷へ出入りすることが出来るわ。でも安心して、あなたにはこれからここに一緒に住んでもらおうと思ってるから、そんなに使わないと思うわ。でも一応大事に保管しといてね。」
「はい、わかりました。・・・ところで、加奈さんと狐太郎様は・・・?」
「ああ、コタちゃんは自分の部屋でお昼寝してるわ。加奈ちゃんはコタちゃんのそばに居てもらってるわ。」
「そうなんですか・・・」
「さあ、行きましょう。こっちよ?」
そういって案内をする留美。美咲は屋敷の大きさに驚きながらその建物の中に入っていった・・・
「・・・さあ、ここで少し待っててもらえるかしら?」
留美の案内によって屋敷の一階の部屋に案内された美咲。
その部屋はベットやクローゼット、机など一通りの家具が置かれている。しかしそれでもその部屋には十分なスペースがありなかなかに大きい部屋だと分かる。
「はい、分かりました・・・」
美咲の返事を聞いた留美は部屋を退室した。
「はぁ・・・ここが狐太郎様のお屋敷・・・」
留美が居なくなって緊張の糸が途切れたのか、きょろきょろと部屋を見回す美咲。
そのままウロウロと部屋を見て回った後、ベットの上に腰かけた。
丁度その時
「(コンコン) 失礼します。あら?美咲さん・・・」
部屋に入ってきたのは加奈であった。
「あ、加奈さん・・・あれ、じゃあ狐太郎様は・・・?」
「ええ、ご主人様は留美様が見ていらっしゃいます。」
そういって近づく加奈。
「さて・・・美咲さん、これを。」
そういって手紙のような物を差しだす加奈。
「・・・あの、これ・・・」
「留美様からでございます。私の話はあなたがそれを読み終わった後にします。」
といって手紙を読むように促す加奈。美咲はそのまま手紙を開き、読み始めた。
『美咲ちゃん。あなたは今日からここで使用人、つまりメイドとして住み込んでもらうわ。まあ、コタちゃんが嫌がったらこの話も無かったことになるけど・・・』
手紙は少し不安になるような文から書き始められていた。
『ここでの生活を説明するわね。この屋敷の主はもちろんコタちゃんと私。メイド長は加奈ちゃんよ。あなたには今後増えるかもしれない他のメイドさん達の、「教師」の枠の長になってもらうわ。
つまり、他に学園の教師たちの中からメイドさんが増えた時、その人たちはあなたのもとでメイドとなることになるわ。』
どうやらメイド達の中にも上下関係があるようだ。確かに、人々を組織する中で、上下の関係をはっきりさせることで組織を円滑に運営することが出来るのにも一理ある。
そう思った美咲はさらに読み進めた。
『また、生徒たちの中からメイドさんとなる人が現れたら同じように生徒たちの代表を決めて、その子に「生徒」の長を務めてもらうつもり。
そして、そのあなた達全員を束ねるのが「メイド長」。つまり加奈ちゃんよ。今後あなたはコタちゃんや私はもちろん、加奈ちゃんの命令にも従ってもらうわ。』
そこまで読んで顔をあげる美咲。加奈はそんな美咲を見つめてニコニコしている。
「どうしました?続きを・・・」
そういって続きを読むよう言う加奈。美咲は再びその手紙に目を降ろす。
『詳しい話はこのあと加奈ちゃんに聞いてね。あと、コタちゃんの部屋だけど、このあと加奈ちゃんに屋敷を案内してもらう時に紹介されるでしょうけど、コタちゃんの部屋にはコタちゃんと私と加奈ちゃんしか入れないわ。
私やコタちゃんが直接許可を出したら入れるようになるけど、それまではコタちゃんのプライベートルームに入るようなことは無い様にね。
最後に、コタちゃんや私、それから加奈ちゃんには「様」をつけるように。そういうところはきちんとね。特に加奈ちゃんは・・・怒ると怖いから、気をつけてね。』
そこで手紙は終わっていた。