先祖がえり 200
状況を理解した明日香はそのまま動けないでいた。
周りの真由や千恵達も動けないまま
―――――――カタカタカタカタカタカタカタ・・・・
手に持ったお茶の入った器を震わせていた。
ただ一人
「あらあら。いらっしゃい。どうしたの?」
明美だけはいつもの笑顔を絶やさず、いつの間にか部屋に入っていた来客に話しかける。
「いえ・・・ノックもせず大変申し訳ございません。なにやらとても面白そうな話が聞こえてきまして。」
来客は頭を下げ、自分の無礼を詫びた。
今その姿を見ているのは明美だけである。
明日香達と明美は対面しており、さらに明日香達は皆揃って明美の方を向いているため、背中を向かない限りはその姿を拝むことは出来ない。
と言っても拝むことが出来ないのには他にも理由があるが・・・
「いいのよ。それで?あの子はお風呂から上がったの?」
「はい、既に。それで、お願いがございまして・・・」
「お願い?なにかしら。私に出来ることなら。」
二人の会話を黙って聞く明日香達。今動けば身の安全は確保できない。
「それが・・・今から私も含めて、食堂の方へ用事がありまして・・・」
明美はその言葉だけでなんとなくなにをするのかに気づいてしまう。
「ああ〜・・・もうだいぶきてる感じ?」
「えぇっ?! ええ・・・」
一発で「用事」の内容を見抜かれ驚く加奈。
だが明美は気にせず
「それで?・・・ああ。なるほどね。いいわ。連れて来てあげて。」
続けて加奈の「お願い」まで見抜き、受け入れる返事をする。
加奈は再度驚きの表情を見せるが、すぐに元の微笑みに戻り
「・・・はい。お願いします。 あ、あと・・・」
再度明美に頭を下げると、自分のすぐ近くで震えている女性に目をやり
「・・・明日香さんをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「!!!!!」
不思議なまでに落ちついた声音で明美に追加のお願いを言う。
ついにその時が来たとばかりに明日香は肩を震わせる。
「ええ。結構よ。でも、あまり厳しくしちゃダメよ?それを守れるのなら。」
「承知しております。では・・・」
「そうね。 さて、ごめんなさいね。こういうわけだから、今夜はお開きにしましょう。大したもてなしも出来なくてごめんなさいね?またいつでもいらっしゃい。」
明美の声で解散が言い渡される。
女性達はすぐに立ち上がり、一礼をすると、出来るだけ加奈を刺激しないように部屋を後にしようとする。
その中に乗じて部屋を出ようとする者が・・・
「・・・明日香さん?どこに行くのです?」
「ヒゥッ!!!!!!!」
だがあっけなく捕まってしまった。
「・・・大変面白いお話でした。ぜひお部屋で続きを聞かせてください。」
「そ、そんな・・・大した話じゃないです!!あ、そうだ!加奈様、何か用事があったのでは?!急がれた方が・・・」
明日香は何とか逃げようと策を考えるが
「そうですねぇ・・・じゃあ私の部屋で待っていてください。里美さん!」
加奈は部屋を出て行こうとした里美を呼び止める。
「は、はい・・・なんでしょうか・・・?」
自分も何かしでかしたのだろうかとビクビクする里美。
だが言い渡されたのは
「・・・この後明日香さんには私の部屋で待っていて貰うので、警備をお願いできますか?夜は何かと物騒ですから・・・」
護衛の依頼であった。もちろんその真意は明日香を逃がさないためではあるが。
「は、ハッ!!かしこまりましたっ!!」
加奈からの命令を断ることも出来ず、里美は依頼を受け入れる。
「お願いしますね?ついでに明日香さんをお部屋まで案内してください。」
「ハッ!! 明日香・・・すまない。ついて来てくれ・・・」
「そんなぁ!!助けてぇ〜〜〜〜!!」
夜の屋敷に悲鳴が轟いた。