先祖がえり 198
「・・・はい、コタちゃん。 加奈ちゃん、なんだかいつもより食いつきが違うんだけど・・・」
「あの・・・それは・・・」
加奈が上手く言えずにいると
「・・・んっく。これ、ママが作ったの?」
早くもお皿の上のいなり寿司を全て食べ終わった狐太郎が明美に話しかける。
「分かるの?こーちゃん。」
「うん!懐かしくて、僕の一番好きな味・・・」
狐太郎はそう言うと幸せを噛みしめているのか「ふゆ〜・・・♪」と満足した様子で一息つく。
「あ、明美さんが?」
留美は先ほどの会話を聞いてどういうことか理解したようだ。
「ええ。何とか昔作ってあげた味に近づけたんだけど・・・上手くいったみたいね。」
明美は嬉しそうに微笑みながら、狐太郎の頭を撫でてやる。
「・・・私、この子がこんなに美味しそうにしてるところ初めて見ました。」
「あら、嬉しい。 こーちゃん?もうお腹いっぱい?」
留美の発言にも笑顔で返し、明美は狐太郎の世話をする。
「・・・まだいなり寿司ある?」
どうやら夕食はもう少し続きそうだ。
「・・・とりあえずはこんなものね。」
夕食後、狐太郎達は風呂に入っている。
明美はまだ少し荷物の整理が整っていなかったため一緒に入るのを遠慮していた。
狐太郎は一緒に入ると駄々をこねていたが、何とか説得して今に至る。
荷物の整理が一通り終わった丁度その時
――――――コンコン
「あら?・・・どうぞ。」
彼女の部屋に誰かが訪れて来た。
「・・・し、失礼します・・・」
「あら、千恵さんね。どうぞいらっしゃい。一人で来たの?」
訪れたのは千恵であった。
しかも
「あ、いえ・・・実は・・・」
訪れたのは彼女一人ではなく
「あらあら・・・えっと、亜紀さん、琴音さん、真由ちゃん、静香ちゃん、明日香ちゃん、里美さんよね?どうぞ。」
今狐太郎と一緒にお風呂に入っていない女性がみんな集まっていた。
と言っても、里美に関しては千恵が半ば無理やり連れて来たのだが。
「・・・それで?どうしたの?」
明美は皆をソファーに座らせる。と言っても全員が座れるわけではないが。
「あの・・・特に用があるというわけではないのですが・・・」
「ち、千恵ちゃんが『せっかく明美様が来て良いっておっしゃったんだから行こう』って・・・」
「わわっ!亜紀ちゃん?!」
明美の目の前で二人の女性がワタワタする。
「あら、嬉しい。来てくれたのね?」
「よ、宜しかったでしょうか・・・?」
千恵はおっかなびっくりに問いかける。
「ええ。勿論よ。丁度私もあなた達といろいろお話したかったの。ちょっと待ってて、今お茶を淹れるから。」
明美はそう言うと席を立ち、部屋の奥へ向かって行った。
(ちょっと千恵ちゃん?!これからどうするのよ?!)
行き当たりばったりで来たので、これからのことを考えていない。
(だ、大丈夫よ・・・明美様はきっとお優しい方よ。だって、あの狐太郎様のお母様なのよ?)
千恵も少し緊張気味に答える。
(で、でも・・・お母様だからこそ失礼があったら・・・)
琴音が近くにやって来て話に加わる。彼女も慌てた様子だ。
そこに
(大丈夫ですよ。そういうのをあまり気にしない人ですよ。)
明日香が平気そうな顔で話しかける。彼女だけが今のメンバーの中で唯一昔から明美を知る人間である。
(だけどっ・・・今日だって里美さんが刃物を出してるのに全然怖がらなかったんです・・・よっぽど気丈な方じゃあ・・・)
(ま、真由様っ?!やめてください!あの時の私の話はっ!)
6人が小声でワイワイしているのを静香だけが黙って聞いていた。
すると
「お待たせ。さ、どうぞ。」
明美が7人に、自分の分を入れて8人分のお茶を持って来た。
明日香を除いた6人は緊張した様子でそのお茶を受け取る。
「・・・それで、なんの話をしてたの?」
一息ついた明美が先ほど小声で話しあっていた内容を聞いてくる。
「えっ?!あ、あの・・・それは・・・」
まさかその話の内容を言うわけにもいかず、千恵がオロオロしていると
「・・・あら?ちょっと待って?」
明美が急に千恵の服に手を伸ばしてくる。
「えっ?あ、明美様っ?!」
「動かないで・・・ほら、糸くずがついてたわ。」
明美はそう言うとニコッと笑顔を見せて、自分の席に座った。
「へっ?・・・あ、ありがとうございます!!」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで混乱した千恵はしきりに頭を下げてばっかりだ。