先祖がえり 150
「・・・里美。」
「は、はいっ!!」
やはり捨てられてしまうのか・・・
里美は緊張した面持ちで狐太郎を見上げる。
「里美にとって・・・えっと、ちゅうせい・・・を、ち、誓うのは誰?」
狐太郎は難しい漢字につまづきながらセリフを読みあげる。
「そ、それはもちろん狐太郎様のみです!!私は、狐太郎様に一生の忠誠を誓います!!」
里美は大きな声で宣言する。
それを聞くと
「・・・じゃあ、ここに居るお姉ちゃんや加奈達のことは?」
狐太郎はセリフの続きを読みあげる。
「え・・・なぜ私が彼女たちに従わなければならないんですか?」
里美はおかしなことをとばかりに聞き返す。
「えっと・・・いいかい里美。今から僕の言うことをよく聞いて。これから里美はこの・・・えっと・・・」
(やしき、よ。)
留美がフォローを入れる。
「・・・これから里美はこの屋敷でメイドとして働いてもらうよ。もちろんおじいちゃんの・・・秘書の仕事もやってもらう。」
「は、はいっ!!」
どうやら捨てられはしないということが分かり、嬉しそうに返事をする里美。
「・・・その上で、まずお姉ちゃんの言葉には従わないといけないよ。」
「!!! そ、そうなのですか!!」
初めて知ったとばかりに驚く里美。
「・・・じゃあ、これから先はお姉ちゃんの言うことを良く聞いてね。・・・はい、お姉ちゃん。」
「ありがとう、コタちゃん。」
留美は狐太郎を良くやったと抱き上げる。
「あ、あの・・・」
里美はどうするべきかとオロオロしている。
「・・・里美ちゃん。いえ、里美さんって呼んだ方が良いかしら?気安く呼んで欲しくないのよね?」
留美はまず、個人的な恨みを晴らす。
「い、いえ!!里美ちゃんで結構です!!」
狐太郎の言葉によって、今里美の中で従うべき人間は狐太郎と留美の二人になった。
「そう。じゃあ里美ちゃん。もう一度聞くけど、あなたが従うべき人間は?」
「はいっ!狐太郎様と留美様ですっ!!」
「・・・他は?」
「・・・他?他と申しますと・・・?」
何のことか分からない。キョトンとする里美。
「じゃあ一気に説明するわね。まず、あなたがこれから絶対的な忠誠を誓うのはこの子、狐太郎ね。」
「はいっ!もちろんです!」
「そうね。そして、コタちゃんと同じぐらい私にも忠誠を誓いなさい?」
「は、はいっ!」
これで里美は留美の言うことを完全に聞くだろう。
「それから、ここに居る加奈ちゃん、美咲ちゃん、真由ちゃんもあなたが従うべき人間よ?いいわね?」
「そ、そうなのですか!!申し訳ございませんでした!!」
里美は今までの無礼を恥じたのか謝りだす。
留美はそのまま続けて
「あと、なんだか最近生意気な態度を取っているらしいけど、お爺様もあなたが従うべき人間だわ。わかった?」
「は、はいっ!わかりました!」
「それから、それ以外にもこの屋敷にはメイド達が居るわ。新しいメイド達も来ることでしょう。その子たちは皆あなたと『対等』の立場よ?決して見下したりしないこと。」
「あ、はうぅ・・・わかりました。」
自分の性格の事について言及され、シュンとする里美。
すると
「・・・あ、あの〜・・・留美様?」
「ん?なにかしら?」
今度は里美の方から質問のようだ。
「・・・もし狐太郎様と留美様が全く逆の指示を出した場合、私はどちらの指示を聞くべきなのでしょうか・・・」
つまり、優先順位を聞きたいようだ。
「ああ、それはね、コタちゃん、私やお爺様、加奈ちゃん、美咲ちゃん、真由ちゃんの順よ。わかったかしら?」
「はいっ!わかりました!!」
これで一通りの説明は終わった。
「さて・・・それじゃあ早速。里美ちゃん。他の隊員たちを全員本社に引き揚げさせて頂戴。急いでね。」
留美は早速指示を出す。
「ハッ!・・・ですが。」
「ん?なに?」
「・・・まずは、これを解いていただけませんでしょうか?」
「ああ、そうだったわね。加奈ちゃん?」
「はい。」
留美に指示を出された加奈は隊員たちの紐をほどいてやる。
すると
「ありがとうございます。加奈様。 こら、お前達!いつまで寝てるんだ!!撤退だ!!」
里美は自分の部下に厳しく撤退の指示を出す。
こうして里美が襲撃してきた事件は幕を閉じた。
全部隊が撤退し、食堂で気絶していたメイド達も救出した後
「・・・以上が注意事項です。なお、ご主人様の寝室の入室許可は今回特別に与えられているので、ご主人様のご用命があれば入室を許可します。」
里美に連絡事項を伝える加奈。
「はい。ありがとうございます。」
キビキビとした返事をする里美。加奈も嬉しそうだ。
「では、こちらへ。」
元々着ていた服に、胸だけサラシを巻いた姿の里美。
そのサイズを測るため、加奈は所定の位置に里美を呼ぶ。
「これからあなたに渡すメイド服を新調しますので、サイズを測らせて下さいね。」
加奈は笑顔でそう指示を出す。
しかし
「あ、あの・・・加奈様。」
「・・・? なんでしょうか?」
里美は申し訳なさそうに手を挙げる。
そして
「そ、それが・・・私、そのような服だと動きにくくて・・・」
「・・・はぁ。」
「そ、それで・・・出来ればこの服の新しいサイズを・・・あ、あの!注文をつけるようで申し訳ないのですが!!」
どうやらメイド服だと動きにくいため、新しいサイズの戦闘服が欲しいらしい。