先祖がえり 134
「・・・先生、その子が・・・」
「ええ、そうよ。さ、コタちゃん?家庭科の御榊 琴音先生よ。御挨拶して?」
「・・・う、うん・・・お姉ちゃん。」
琴音は二人の会話を聞いて
「・・・コタちゃん・・・お姉ちゃん・・・?」
多少の疑問を持つが、その疑問は
「・・・あ、あのぉ・・・木崎、狐太郎です・・・」
「・・・!!!」
狐太郎の自己紹介によって解決する。
「え、ええっ?!じゃあこの子g・・・むぐっ!!」
驚きのあまりうっかり大声を出してしまった琴音は
「琴音さん!」
「む〜、むむむむ〜!むむ〜!」
後ろから来た加奈によって口を塞がれていた。
見れば狐太郎は怯えこそしてはいないものの、怪訝そうな顔をしている。
(いいですか、琴音さん・・・絶対に、ぜぇっったいに、この方を怖がらせるような真似は止めてくださいね?)
背後から聞こえてくる加奈の小声に
「・・・・(コクコク)」
琴音はゆっくりと頷いた。
すると
「・・・失礼しました。」
そう言って離れる加奈。
琴音は大きく深呼吸をして、息を整えると
「・・・では、この子・・・いえ、この方が・・・」
努めて冷静に、留美に話しかける。
「ええ。この子が狐太郎。私の従姉弟よ。」
「そう・・・ですか・・・」
加奈に言われたので、驚かさないように冷静でいようとするが、琴音の頭の中は
(・・・この方が・・・噂通り、ものすごく可愛い・・・さ、触りたい・・・なでなでしたい・・・)
完全に狐太郎の可愛さにあてられ茹であがっていた。
すると、あまりにジッと見つめてしまっていたのか
「・・・あうぅ・・・」
狐太郎が留美の服をキュッと握り直す。
その瞬間
「・・・こほん。」
近くに居た加奈が咳払いで合図する。
その咳払いでハッと我に返った琴音。
自分を落ちつかせるように大きく息をして
「・・・はじめまして。狐太郎様。私は御榊 琴音。どうか『琴音』と呼んでくださいね。」
相手が狐太郎と分かり、恭しく挨拶を済ませると、ゆっくりと手を差し伸べる。
狐太郎はその手と琴音の顔を交互に見て、どうするべきか悩んでいる様子だ。
すると琴音のもとに加奈が近づき
(・・・もしこの方が心を開いてくだされば、握手の後、ゆっくりと抱きついてあなたの匂いを覚えようとなさるはずです。その後、耳や尻尾を見て警戒が解かれたことを確認したら、あなたの方から抱きついてくださっても構いません。ただし、優しくですよ?)
耳打ちをする。
琴音はそれを聞いて小さく頷き、狐太郎の反応を待つ。
すると
―――――――――チョン
いつものようにゆっくりと琴音の手を触った後
―――――――――キュッ
握手を返す狐太郎。
そして
「・・・お姉ちゃん?」
狐太郎が何をしたいか理解した留美はそのまま狐太郎を降ろし、放してやる。
するとすぐに
―――――――――キュッ
琴音の腰のあたりに抱きつく狐太郎。
耳を澄ますと「スン、スン」と聞こえる。
(ああ・・・どうか・・・)
自分に心を開いてくれることを願う琴音。じっとその時を待つ。
そして
「・・・ん。覚えたよ、琴音の匂い・・・」
狐太郎がそう言うと
―――――――――ふにゃぁ
耳や尻尾がその緊張を解いた事を示す。
それを確認すると
「ああ・・・狐太郎様・・・」
琴音は中腰になり、狐太郎を抱きしめたやった。