先祖がえり 108
その姿に真由も
「・・・あ、あの・・・もう、いいです。許しますから頭をあげて・・・」
おろおろしながら3人に頭をあげるように言う。
それを見ていた加奈は
「・・・真由さんも、生徒長としての自覚を持ってください。あなたはメイド達を束ねる『長職』なんですよ?」
真由にも注意する。
「は、はいっ!!も、申し訳ございません!!」
まさか怒られるとは思っていなかった真由は慌てて加奈に頭を下げる。
その姿を見て
「・・・ふぅ・・・じゃあ皆さん、食事の準備をしましょう。」
加奈はいつもの・・・とは言えないが、苦笑いを浮かべる。
4人と美咲はその表情を見て「嵐は去った」と安堵する。
ところが
「あ、あの・・・加奈様?狐太郎様は・・・」
千恵が聞いたこの一言がいけなかった。
「ち、千恵さんっ!!それは・・・」
慌てて止める美咲だが、一度放たれた言葉は取り消せない。
加奈はみるみる不機嫌な顔になり
「・・・留美様に・・・取られました・・・」
そう一言だけ言うと厨房に入っていった。
「・・・もうっ!!千恵さんったら・・・」
「も、申し訳ございません・・・ですが・・・」
美咲は少し慌てた様子だが、こればっかりは4人に説明しなければ伝わらない。
美咲は加奈が不機嫌な理由を説明した。
「・・・なるほど・・・」
「だから加奈様は今不機嫌なの・・・」
説明が終わるその時
「あなた達っ、早くっ!」
「「「「「は、はいぃ!!」」」」」
加奈の声によって5人は厨房に入っていった。
「・・・チュズ・・・ズ・・・ップァ・・・」
「・・・? コタちゃん、もういいの?」
その頃狐太郎は留美の母乳を吸うのを止めていた。
「うん。お姉ちゃんありがとう。美味しかった!」
ニパッと笑う狐太郎。目もすっかり覚めたのだろう。
「ふふふっ、良かった♪」
留美は笑顔の狐太郎を抱きしめ、頭を撫でる。
しかしその時、狐太郎はあることに気がついた。
「・・・? お姉ちゃん、加奈と美咲は?」
寝ぼけていたのではっきりは覚えていないが、確かそばに居たはず・・・
それが今では姿が見えない。疑問に思った狐太郎は留美に聞いてみることにした。
「えっ?!そ、それは〜・・・そう!朝ごはんを作りに食堂に行ったわ!」
なんだか様子のおかしい留美。何かを隠そうとしている様子である。
これに気づかないほど狐太郎は鈍感では無かった。
「・・・ホントに?」
疑った目で留美を見る狐太郎。
「え、ええ!ホントよ!どうしたの?コタちゃん?」
留美はなおも本当と言い張る。
しかし留美は何かを隠している。怪しく思った狐太郎は探りを入れることにした。
「・・・お姉ちゃん。嘘ついてるでしょ。」
「!!!! そんなことないわ!」
ギクッとした様子の留美。狐太郎は留美が嘘をついていると確信した。
「・・・お姉ちゃん・・・また加奈に意地悪したの?」
「そ、そんなこと!!」
「・・・僕・・・意地悪も嘘も嫌いだよ・・・」
狐太郎のこの発言で留美は言葉を失う。これ以上嘘をついたら狐太郎に嫌われかねない。
「あう・・・コタちゃん・・・ごめんなさい!実は・・・」
これ以上の抵抗は無理だと考えた留美は正直に事情を話すことにした。
「・・・と、言うことなの・・・」
少し申し訳なさそうにする留美。今思えば自分のとった行動は大人げなかった気がする。
狐太郎はその話を黙って聞いて
「・・・意地悪しないでって約束したのに・・・」
少し怒気のこもった声を出す。
その瞬間
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい、コタちゃん!!」
留美は顔色を変えて謝りだす。
「・・・・・・」
黙ってそれを聞く狐太郎。
しかし留美は謝るのに必死で、その狐太郎の目に少しの悲しみが浮かんでいるのを見逃していた。