淫蕩王伝 80
そしてアナシアが神聖魔法である気弾を放って、気絶させた。
「何とか、片付いたみたいだね。」
リュウジュが言うと、
「雄が3体くらいは逃げたみたいだけどね。」
とミーシャは答えた。彼女はルナマリアの魔法攻撃を支援すべく囮をしていたようだ。
「いや、まだだ。まだ後始末が残っている」
ヴァレリアがフラガラックと呼ばれるロングソードを鞘に収めながら言う。
鞘に収まった剣は、光を放つと元の杖に戻っていた。
「何が残ってるってのさ?」
ライアが聞き返す。
「村人を呼び戻す。こいつでな」
言うなり、ヴァレリアは茶色い爆弾のような物を取り出した。
花火玉だ。
「着火(イグナイト・ファイア)」
ヴァレリアが魔法を唱える。
花火玉の導火線に火がつき、ヴァレリアは花火玉を空に放り投げた。
玉の中の火薬に火がつき、花火玉は空へ高く飛んでいく。
ドォーン! パラパラパラ・・・・・・
昼の空に、花火があがった。
「さぁ、後は村人が戻ってくるのを待つだけだ」
それから間もなく、村の向こうの丘の上に人々の姿が見え、恐る恐るこちらに近付いて来た。
「お〜い!!村を襲っていた奴らは残らず倒しましたよ〜!!」
リュウジュは笑顔で村人達に手を振る。
「この分だと今夜は大歓迎だね。ご馳走…上等な酒…柔らかいベッド…フフフ♪」
それらを想像して微笑むライアにアナシアは言った。
「あ…あの…ライアさん…何か村人さん達の様子…とても私達を歓迎してるようには見えないんですが…あれは私の気のせいでしょうか…?」
「いや、明らかに我々を敵視しているな…」
サラも言った。村人達は手に手にスキやクワを持ち、ここから見ても殺気立っているのが分かった。
「あ!!しまった…コイツのせいか」
ライアはヴァレリアを見て「あちゃー」というように顔に手を当てて言った。
「え!?何でヴァレリアさんのせいなの?」
リュウジュは状況が把握出来ない。
「済まん、私は去る。お前達も早く逃げた方が良いぞ。私と一緒にいる所を見られたからな…」
なぜか謝るヴァレリア。
「い…意味が解らないんだけど…」
「ダークエルフは魔王の眷族だからね。私達、魔王の手下だと思われてるんだよ。その人の言う通り、早く逃げないと村の人達、襲いかかって来るわよ?」
未だ話が見えないリュウジュにミーシャが説明してくれた。
「さすがに人間相手に戦う気は無いしね…」
「本来なら感謝されるべき立場なんだけど…」
「ま、いいじゃない。こーいう事もあるって…」
ミーア、ルナマリア、アメリアはそう言いながら、早くも馬車に乗り込み、逃げる体勢に入っている。
「そういう事ですリュウジュさん。さ、私達も行きましょう」
アナシアに手を引かれ、馬車に乗り込むリュウジュ。
「うん…あ!ちょっと待って!じゃあせっかく生け捕りにした雌トロル達は…?」
「それは諦めろ」
サラが言った。
「そんなぁ…」
「あぁ…ご馳走…酒…」
ライアはまだ馬車に乗らず、ブツブツぼやいている。
「ライアさん!早くしてください!」
アナシアが叫んだ。村人達はリュウジュ達が逃げようとしていると見て、こちらに向かって農具を振りかざしながら走って来る。
「う〜ん…やっぱり一匹つれて行く!」
何を思ったか、リュウジュは馬車から飛び降りた。
「リュウジュ!」
「リュウジュさん!?」
「一匹だけ!一匹だけ良いでしょ?まだ馬車には余裕あるし…」
なんとリュウジュは雌トロルを諦めきれず、一匹だけ馬車に載せて逃げると言うのだ。