淫蕩王伝 48
エレンは酒樽を抱えてゲズマの元へ戻って行った。
『聞いたかい?』
『うん』
エレンが居なくなると先程の樽と隣の樽が会話を始めた。
『私は門を開けて外で待機してる男達を引き入れるから…』
『僕はアナシアさんを探すよ』
『よし!』
二つの酒樽のフタがゆっくりと開き、中からリュウジュとライアが現れた。
二人はそっと荷車から離れ、ライアは門の方へ、リュウジュは砦の中にある建物の方へ向かった。
盗賊達は誰もそれに気付かない。
リュウジュは各部屋を順々に回ってアナシアを探した。
「いないなぁ…ん?あれは…」
廊下の突き当たりに錠前のかかった大きな鉄扉があった。いかにも何かありそうな部屋だ。
「よ〜し…」
リュウジュは刀を抜くと錠前目掛けて振り下ろした。
ガシャァン!
銅製の錠前は真っ二つになって床に落ちた。
今のは“異界の光”の力ではなく、リュウジュ自身の剣技によるものである。
リュウジュは扉を開いた。
ギギィ…
「見つけた!アナシアさん!!」
「ンン…ッ!!?」
アナシアは全裸で猿ぐつわをされ、両手を後ろ手に縛られて床に転がされていた。
そこは倉庫らしく、広い部屋の中は食糧や財宝が山と積まれていた。ヨランダ達の村から奪った物だけではないようだ。恐らく今までに得た分捕り品を全部ここに集めたのだろう。
リュウジュは急いでアナシアの元に駆け寄ると、猿ぐつわを外して縄を解いてやった。
「大丈夫!!?ヤツらに何かされなかった!!!?」
「リュ…リュウジュさぁん……うあぁ〜〜ん!!!!怖かったぁ〜〜〜!!!!」
アナシアはリュウジュに抱き付いて子供のように泣きじゃくった。
「もう大丈夫だよ…」
リュウジュは彼女の体を優しく抱きしめた。
ところが…
「あ…あれ?何か足元が生暖かいような…ア…アナシアさん!!?」
「ふ…ふえぇ〜〜〜!!!?い…嫌ぁ!!!ダメぇ〜〜!!!!」
いくら口で「ダメ」と言っても止められない。
緊張の糸が切れたアナシアは自分でも気付かぬ内に放尿を始めてしまった。
そうこうしている内に外からワーワーという騒がしい声が聞こえて来た。恐らくライアが門を開けて男達が砦内になだれ込んで来たのだろう。
「さぁ!行こう、アナシアさん」
「は…はい…」
アナシアは顔を真っ赤にしながら小声で返事した。
リュウジュは自分のマントをアナシアに着せてやると、彼女の手を取って外へ出た。
「く…くそぉ〜…」
酔って寝ていた盗賊達はあっという間に一網打尽にされ、お縄を頂戴したのであった。
隊長であるヨランダの弟はリュウジュとライアに言った。
「ありがとう。あなた方のお陰です」
「こちらこそ、村の皆さんのお陰でアナシアさんが無事に戻って来られました」
「本当に、皆様には何とお礼を言ったら良いのか…」
アナシアがそう言いかけた時だった。
縄に繋がれていたはずのゲズマが急に立ち上がったかと思うと脱兎の如く走り去ったのである。
「へへ…あばよ!」