勾玉キッス☆ 98
「どれくらいこの姿を保っていられるの?」
「48時間。それ以上過ぎると、数珠は粉々に砕けるから気をつけてね。
さて。プールに行くとしますか。
ミヤビ、あなたもプールに入らない?」
「また今度にするわ。私、古式泳法しか知らないし」
「残念だなぁ、水着はあるのに」
「それじゃあ、私は行くわ。まずは力を回復させないと」
「ああ。じゃあね」
ミヤビは自分を霊体化させると、宙に浮いたまま、どこかへ飛んで行った。
私は屋上のドアを閉め、水着を取りに教室へ走り出した。
森の中からだろうか、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえた。
「ちょっと! 人の荷物を見ないでくれる? じゃないと、カラカラになるまでみんなの“筆下ろし”するわよっ!」
「「「お願いしますっっ!!」」」
* * *
「嫌だぁぁっ! プールなんか行きたくねぇぇっ! あんな派手な水着、絶対に着るもんかぁぁっ!」
「注射を嫌がる子供じゃないんだから、いい加減に観念しなさい!」
嫌がる俺――桐生 雅――を力づくで裕美は引っ張っていく。
別にプールが嫌いでもないし、泳ぐのが苦手でもなく、ましてや水にトラウマがあるわけじゃない。どちらかというのなら、泳ぐのは好きなほうだ。
ただ。
俺はあんな際どい水着を着て、人前に出るのが嫌なのだ。
恥ずかしいというのもあるけれど、鼻血を出すんじゃないか、“ポロリ”をしてしまうんじゃないかと思うと怖くてたまらない。そんなことをしたら一大事だ。
ヘタしたら、俺の正体がばれかねない。
裕美はそんな俺の心境を知っているのかいないのか………
「なぁ。押し問答は結構だけど、とりあえずどいてくれないかなぁ。ボク、通れないんだけど」
後ろか声がして、俺は振り向き、裕美は顔を上げた。
そこに立っていたのは、水着の入った袋を小脇に抱えた長身の女の子。
神村 幸だ。
ボーイッシュな性格とスタイルの良さ、そして、自分のことを[ボク]と言う、いわゆる“ボク少女”であることから、クラスでは人気者の一人だ。
神村には、ちょっと変わった趣味がある。
特撮好きなのだ。しかも、平成仮○ラ○ダ○シリーズが。
「なんだ。押し問答しているのは、天野さんに雅ちゃんじゃないか。
……どうしたの、ボクの顔をじっと見て。ご飯粒でもついてる?」
「あっ、ごめんね神村さん。通せんぼしちゃって」
「別に気にするほどじゃないさ」