勾玉キッス☆ 1
ヒュン!!
流れる1本の矢。それは綺麗な放物線を描き、獲物に突き刺さっていく。
「グァーーー!!」
地を這うような地響き。他を威圧するような魔物の叫びが、辺り一面に轟く。
矢を放った人物は、ジッとその様子を伺っている。
それは―― 美しい少女。
艶のある長い髪を束ね白い巫女服を着た少女は、この世の者とは思えぬ神々しい姿であった。
「キサマ…ヨクモオレヲ………ユルサヌ…」
「魔物よ、この国はお前のいる場所じゃないわ。立ち去りなさい!」
凛とした美声が上がる。ゆっくりと頬に掛かった髪を拭い、相手を威圧する。
魔物は―― 全身に傷を負いつつも、真っ赤な獣の目で、ゆっくりと少女を見据えていた。
「ワレニハワカラヌ。ナゼニンゲンドモノ…」
口元からは鋭い歯を出しながら、魔物が少女に近づく。その大きさは彼女の数倍はあろうか。
「オンナ、キサマモイギョウノモノ。ニンゲンノセカイニハイラレヌ」
「黙れ!!」
少女が御札を懐から取り出し魔物に突きつける。
すると中心から凄まじい衝撃波が発せられ魔物を近くにあった岩に叩きつけた。
「グギャァアア!!!」
魔物が思わず耳をふさぎたくなるような物凄い悲鳴を発する。
少女は無言で魔物に向かってさらに札を投げた。
「グォオオーーーー!!!」
御札が魔物の体に突き刺さると物凄い光を発し、魔物の体は背にしている岩に吸い込まれていく。少女はその様子を見届け、何かを呟いた後、踵をかえしその場から去っていく。
「オンナ!! オボエテイル!! カナラズヨミガエリ、キサマニフクシュウシテヤル! コロスナナドトナマヤサシイコトトオモウナ!! イキジゴクヲアジアワセテヤル!!」
断末魔の叫び声をあげ、魔物は封じられた。
―― 随分とリアルな夢だったな。
そう呟やきながらベッドから起き上がる。毎晩見るあの光景。
見る毎に微妙にシチュエーションが違っている。
「ふう、なんだよあれは。やっぱ俺って疲れているのかな」
そうぶつくさ言いながら、また眠りにつく。部屋の窓から差す月明かり。
―― 満月が赤く染まる時、良からぬ事が起きる ――
今は三日月。それが少しずつ赤く染まり始めているのに、気が付かないまま……