勾玉キッス☆ 95
森崎君は私の言いたい事を分かってくれたのか、静かに頷いた。
もう限界か……
私は裕美さんに微笑みかける。大丈夫、あなたなら……
「雅をお願い、裕美さん……」
私の身体は光となって消えていった……
「ミヤビ!」
……裕美の声だ。
あれ、俺どうしてたんだっけ……あんまり記憶がない。
あぁ、俺寝てたのか。じゃあ今までのは……夢?
何かやけにリアルだった気がするけど……
とりあえずダルい身体を起こし、裕美を見た。
「悪い、寝ちゃってたみたい」
笑いながら頭を掻くと、突然裕美が抱きついてきた。
「よかった、雅……よかった」
おいおい、何だってんだ。
何か涙ぐんでるような……俺が寝てる間に何かあったのか?
あれ、今森崎が居た気が……気のせいか。
「おい裕美、俺は何ともないよ。大丈夫だって」
裕美の頭をそっと撫でてみる。
裕美が顔を上げると、その潤んだ瞳にハッとした。
スゲー綺麗……
俺は顔が赤くなっているのを感じて、咄嗟に顔を逸らした。
「うぅん、ごめん。何でもない」
裕美は俺から離れると、少し目を擦りながら微笑んだ。
え、何でもないのか?気になるけど……ま、いっか。
「あれ、そういや今何時だ?」
俺が尋ねると、裕美は腕時計を見て飛び上がった。
……漫画みたいだな。
「あっ!もうこんな時間!雅、行くわよ!」
「おいおい、わわっ……」
裕美に手を引かれ、俺はふわりと立ち上がる。
裕美の力でも軽々なんだな、女の俺ってのは。
そしてそのまま裕美にズンズンと引っ張られていく。
「おい裕美、どこに行くんだよ〜!」
「プールよプール!水着は選んだ?」
……プール?
うわあ、忘れてたぁああ!!
「嫌だぁぁあ!」
抵抗虚しく、俺はプールの更衣室に連れ込まれた……
* * *
校舎の屋上に、俺…いや、私――森崎 晶――は一人取り残されるようにたたずんでいた。
天野さんが転校生の桐生さんを引っ張るように屋上を去った後は、ブロンズ像のように動かなくなった幻姫を除いては、私一人しかいない。
私は携帯電話を取り出すと、電話帳のメモリーから番号を探し、その番号に電話をかけた。
数度の呼び出し音の後、誰かが電話に出た。
『はい。内閣官房妖魔対策局、林です』
「お疲れ様です。森崎です」
『はい、お疲れぇ。どうしたの?』
「大至急、調べて欲しい物があるんです」
『やぶから棒ね。で、何を調べておくの?』
「一つは、国際線発着のある空港の二週間以内の搭乗者名簿に、“桐生 雅章”と“桐生 雅”両名が載っているかということ。もう一つは、両名の住民票と戸籍謄本を調べて欲しいんです」
『それを調べる根拠は?』
「……分類A。文書番号36。幻姫と名乗る者に遭遇しました」
『……何ですって? 記録では幻姫は死んでいるはずよ。それはともかく、幻姫は?』
「一時的に封印しました。仮に自力で封印を解いたとしても、力を取り戻すにはかなりの時間を要するはずです」