勾玉キッス☆ 92
森崎君は左足を前に出して、前傾姿勢で構えている。杖に仕込んだ刀と腰につけている黒い道具、そのどちらも使えるように。
――あの黒い道具、あれが“拳銃”なのね。おじいさまの所でいろいろ見聞きした甲斐があったわ。
幻姫は、両手の爪を鋭く伸ばしてはいるものの、さっきまで雅章君と抱き合っていたためか、全裸で森崎君と対峙していた。
幻姫は不敵な笑みを浮かべている。
「桐生さんを、返してもらうぞ」
「やってごらんなさいよ。
やれるものなら」
それが、合図になった。
* * *
「はぁあああっ!!」
幻姫の鋭い爪が伸びたかと思うと、森崎君は杖に仕込んだ刀で弾き返す。刀と爪が交差する度に鋭い金属音が響く。
森崎君の剣さばきもすごいけど、幻姫は余裕なのか眉ひとつ動かない。やはり只者じゃないわ。
「ふふっ、人間にしてはやるわね。見直したわ」
「それはどうも。お前も裸でよくやると言いたいね」
幻姫の動きが止まる。
「あら?意外な事を言うのね。私の美しい体に見惚れたのかしら?」
幻姫が大きな胸を揺らしながら妖艶な笑みを浮かべている。
見事な体の曲線。柔らかで瑞々しい肌。張りのある乳房を両手で持ち上げ、見せ付けるように厭らしく揉みしだいている。
確かに雅章君の精気を吸ったせいなのか、幻姫の肢体は巫女である私が見ても淫靡でいやらしい。
しかも彼女の周りには強烈な甘い匂いが漂っている。たぶん普通の人なら性的に興奮しただろう。
でも森崎君は…
「ふん。お前の正体がゴミ屑だからゴメンだね。生憎、俺はそんな紛い物の体には興味が無いんでね」
幻姫の表情が変わった。顔が真っ赤になり口元がわなわなと震えている。
「な、なんですってぇっ!?わ、私の裸に何も魅力を感じないなんて…許さないんだから!」
怒りに震える幻姫だが、すぐに「ふう…」と言って息を整えている。一体何を…っと思った瞬間
細い指先の爪が収束し太い槍となって森崎君に襲ってきた。森崎君は持っていた刀でやり過ごすと一気に懐に飛び込もうとした。
「チャンス!」
一瞬の刹那。幻姫は脇腹を無防備の姿で晒している。
森崎君は刀に力を込め……
「クスッ、熱心ねぇ。折角だけど、貴方って無駄な動きが多いわよ」
「なっ!?」
幻姫が笑っている。森崎君が振り上げた刀の先は、次の瞬間には幻姫に難なく片手で受け止められていた。
まさか。あんな一瞬で…
「……ちぃっ!」
咄嗟に刀を下ろした森崎君はやつから離れる。
「なかなかいい手だったけど、私には止まっているように見えたわよ。所詮は人間の力よね」
幻姫は何事もなかったように、笑みを浮かべている。
「ずいぶん余裕だな。今のでお前の動きが読めたよ。次はないぜ」