勾玉キッス☆ 90
…もう一度言う。今しばらく眠ってもらうぞ」
「何よ、正義の味方ぶっちゃって! この偽善者!」
雅章君を心配しながらも、軽妙で優しい口調で話していた森崎君が一転して、低く迫力を感じる口調になっていた。
一方、雅章君は森崎君を罵倒しながら、精一杯の抵抗をしていた。
「『偽善者』か……何とでも言うがいいさ。
これが俺の……仕事だからな」
森崎君は、右手の人指し指と中指を立てると、呪文のようなものを唱え始めた。
「桐生 雅の淫蕩なる人格に、今しばらくの深き眠りを与えたまえ。
急急如律令!」
「があぁぁっ! ぐうぅぅっ……うああぁぁぁっ!」
その瞬間、雅章君の体がビクンッと大きくのけ反ると、雅章君はまた苦悶の声をあげた。
畳み掛けるように、森崎君は九字真言を唱える。
「臨。兵。闘。者。皆。陣。列。在。前……臨。兵。闘。者。皆。陣。列。在。前……」
森崎君は九字真言の詠唱を止めない。
苦悶の声を上げていた雅章君は、やがて森崎君を睨みつけると、断末魔とも呪詛ともとれそうな言葉を吐き出した。
「……覚えてなさいよ。この体を完全にあたしのものにしたら、必ずあなたを犯してあげるわ!
謝ったって許してあげないわよ!
ぐちゃぐちゃのぐちょぐちょに……汁まみれになるくらいに犯してあげるわ!
………ぐっ…が……あああああぁぁぁぁぁ………!!」
雅章君は体を大きくのけ反らせ、そのまま崩れるように倒れた。
不思議なことに、体の疼きが鎮まっていくのを感じた私は、ゆっくりと立ち上がった。
「あふっ……うあっ……」
尖ったままの乳首が服の生地を擦り、思わず私は甘い声を上げる。股間のぬめり気は相変わらずだけれど、あそこをいじりたい衝動は不思議と湧いてこない。
蹲ったままだった裕美さんもすでに立ち上がっている。
私と裕美さんは、雅章君をじっと見ていた。
雅章君は倒れたまま、動かない。
「大丈夫。気絶しているだけだ」
森崎君の言う通り、雅章君の胸の辺りがかすかに動いているのが見えた。
雅章君は気を失っているだけだった。
「雅章……」
「雅章君……よかった……」
私も裕美さんも、ほっと胸を撫で下ろした。
その一方で、幻姫はかすかに肩を震わせていた。
――笑っている。
幻姫は笑っているのだ。
「ふふふふふ……あはははははっ!!
まんまと騙されたわ!
あなた、やってくれるじゃない!
『一度死んでいる』って言って、私を動揺させたと思えば、いきなり“コーヒー”とやらを飲み出して、かと思えば持っている入れ物をいきなり投げつける……
私はあなたのことを“バカ”だと思っていた。でも、そうじゃなかった。
あれは全て……この瞬間のためだったのね!」