勾玉キッス☆ 89
雅章君は苦悶の声を上げながら、絶え絶えに声を出している。
「…裕美…か……うぅっ…来て…くれた…のか……だったら…もっと早く…来てくれよな……」
「雅…ごめんね。私が一緒にいれば、こんな…こんなことには……」
裕美さんの言葉に、嗚咽(おえつ)が混ざっていた。
裕美さんは…泣いていた。
「桐生さん。天野さんのせいじゃない。気付くのが遅かった俺のせいだ」
「…その声は…森崎……“ダブりの帝王”の…森崎 晶か……」
「転校生の美少女が言う言葉かよ。それ、誰から聞いた?」
「…そ、それは…に…兄さんから…話を…聞いていたから……ぐっ…がああぁっ!」
「桐生さん、どうした!?」
「ぐっ…あああああぁぁぁっっ……気が…遠く……」
絶え絶えながらも、森崎君の言葉に答えていた雅章君が再び苦しみ出した。
あまりの唐突過ぎる出来事が続いたせいか、幻姫は戸惑ったままだった。
「桐生さん、大丈夫か? 気をしっかり持つんだ!」
苦悶の声を上げていた雅章君が急に黙る。
「桐生さん?」
雅章君がゆらりと立ち上がる。その仕草に、私は甘く淫らな匂いを感じた。
私が知っている雅章君から、この匂いを感じたことはなかった。
「……大丈夫、じゃないわ。おかげで危うく閉じ込められるところだったのよ」
「…誰だ、お前は」
「あたしの名前なんかどうでもいいじゃない。
森…崎……君、だったかしら?
あなたってひどい人ね。あたしに缶を投げつけて、その上あたしを眠らせようとするんですもの」
雅章君の口調が、女性口調に戻っていた。
『オトコ』を求める、淫らな雅章君に。
けれどもその口調は、幻姫との快楽に溺れていた時の口調から一転していた。
「どうしてあたしを眠らせようとするの?
あたしは、この体の欲求を叶えているだけなのよ。
こんなに大きくて感じやすいエッチなおっぱいが!
こんなに濡れやすくて感じやすいエッチなおま○こが!
『気持ちよくなりたい』って望んでいるの!
それを叶えることの何がいけないのよ?」
雅章君は『女の本能』を叫び、森崎君はそれを黙って聞いていた。
ただ、黙って聞いていた。
「………偉そうにモノを言うんじゃねぇよ。
いけないもくそもあるか。これ以上、桐生さんの体をお前の好き勝手にさせる訳にはいかないんだ。
悪いが、問答無用で今しばらくの間、眠ってもらうぞ」
「あたしを眠らせるぅ?
冗談じゃないわ! 幻姫のおかげで、あたしはやっと本来の姿を取り戻せたのよ! 今更、なんであんな奴にこの体を返さなきゃいけないのよ?」
「何が『本来の姿』だ! 笑わせんな!
クラスメイトの名前すらまともに知らないで、『本来の姿』を名乗るとはお笑いだ!